オーナメントにご用心？｜リアクション

オーナメントにご用心？

　説得を二人に任せた月詠は、一人芝居から解放され一息を入れる。
　まだ重苦しい空気から解放されたわけではないが、喧噪が止まっただけ御の字だろう。ようやく、まともに館内に流れるクリスマスソングが聞こえた気がする。
「すまなかったね。落ち着いたようだし、何かわからないことがあれば――」
　言いかけて二人を見やると、正反対の顔つきをしている。
　一方は、白いリボンを２等分したのを皮切りに、喧嘩も気にせず黙々と願いを込めて。
　そしてもう一方は、奇妙なナニカを生み出したわけでもないのに、盛大に凹んでいた。

（ああ、こんなの作ってまた引っ越ししたらどうしよう）　柚春の前には、シルククレイで作った杖に緑のリボンを巻いて可愛らしく仕上げた物と、フェルトの中には会場に来る前に買っていた精油を染みこませた綿が入っているのか、スッキリとした香りのする星ができあがっている。
「器用じゃないか。何をそんなに落胆することが？」
「いや……その、私、引っ越しがとんでもなく多くて……」
「なるほど、それで……ふむ」
　さしずめ友情が円滑に行くよう願って、ベースにリースを選んだのだろう。選んだ飾りも悪くはない。
「ちなみにだが、リースにはもみの木や柊などを使った緑のリースと、麦の穂やブドウの蔓なんかを使った茶系のリースがあるんだが……これにも意味がある」
「そこにもですか？　なら、私に合う方は……」
「オススメは茶系だが、こういう物は気にしすぎないのもコツだ」
　確かに意味を持つ物は知りたくなる。それにあやかって何かを求めるのも、悪くはない。問題は、それに満足して何もしなくなったり、過信したりすることだ。
「雑学は『こんな説もあるよ』程度のものだ、君を縛るためにあるんじゃない。オーナメントの意味には悪い物はないのだから、どちらを選んでも君の解釈で良い物が出来ると思うが？」
「解釈……」
　うーんとひとしきり悩み、柚春は直感で選んでいた緑のリースのまま仕上げてみようと思った。
「ありがとう、完成したらまた意味を聞かせてね。私が、都合の良い勘違いをしちゃいそうなやつを」
　苦笑しながらそういうと、柚春は蝋燭作りに挑戦するのだと席を立つ。火を扱うため、蝋燭はスタッフが常にいる指定された場所でしか作成できないようだ。
「火傷には気をつけてな。さて、恵御納はどうだ？　随分と材料を持ってきていたようだが」
「旅鴉さん……このツリーの強度、どう思う？」
　ツリーは２本作るのだと意気込んでいたから、材料の多さは頷けるのだが――夏朝がたくさんの材料を持ってきたのは、それだけでは無かった。
「……福笹みたいで、験担ぎには良さそうだが……強度となると」
　希望の星、幸福のリンゴ、魔除けのベル……小さめのツリーに合わせてオーナメントも小さくなっているとはいえ、折角の常緑樹の緑が埋もれてしまっている。僅かな隙間を埋めるように、助け合いの象徴の杖も添えられ、夏朝の手元にはまだまだ飾るつもりなのか、金運の靴下や豊作祈願のリースもある。
「いい意味がいっぱいあったから、絞り込めなくて」
　沢山飾るために軽い素材の物を選んだかも知れないが、所詮は体験会で触れ合う手作り入門編のようなツリー。しなやかと言えば聞こえは良いが、すでに悲鳴を上げかけるようにゆらゆらと揺らめいている。
　月詠は、この素晴らしきツリーをどのように褒めるか迷った。一人芝居に夢中になっていなかったら、夏朝を止められただろうか。……いや、ここまで盛ったのだ、何か強い思いがあってのことだろう。彼女を止めるには、己の力量では足りなかったかも知れない。
「葉の空間はあるのだから、つけること自体は可能だろうが……別の土台に入れて、下段の枝を支えるのはどうだ？」
「うーん……そうなると、小物入れが使えないよね。いや、しょっちゅう使う物は入れない予定だけれど……」
　折角の仕掛けを閉じ込めてしまうのも捨てがたい。しかし、まだ飾っていないオーナメントも考えようによっては必要で。夏朝は絞り込めずに唸っている。
「そうだ！　リースでツリーの根元を覆えばどうかな？　このリース、何かの枝みたいだからロープみたいにぐるぐる巻けるかも」
「ふむ……なら、松ぼっくりを繋げてリースを作るのはどうだ？　どちらも豊作を願う意味の込められたリースだ」
　これで、リースを作って補強すれば、その上に靴下と杖を飾ることが出来る。夏朝は心を弾ませて追加の材料を取りに席を立った。
「ありがとう、旅鴉さん！」
　果たして、それで本当にツリーが耐えてくれるだろうか。月詠はツリーの安否を祈るという、貴重な体験をすることになった。

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