オーナメントにご用心？｜リアクション

オーナメントにご用心？

　シーサイドタウンのショッピングモールでは、すでにクリスマスソングが流れ、店のあちこちには煌びやかな飾りで彩られている。
　そんなモールの一角。時には抽選会を、時には小規模なヒーローショーが行われる広場にて、今日はクリスマスのオーナメント作りができるイベントを開催していた、のだがーー。
　どんなオーナメントを作ろうかと見本を眺めていた恵御納夏朝の目がぱちくりと瞬かれる。こんなほのぼのとした会場に似合わない怒声が聞こえてきたのだ。

（どうしたんだろう……でも、喧嘩……かぁ）　それができるということは、目の前にその人がいて、きちんと対立できるからであって。
　もし別人格の夏夜が己から『心身ともに分離・共存する』ことができたなら、こうしてちょっとした諍いを起こすことはあったかもしれない。
（喧嘩は……別の所でしてほしいけど……）
　少しだけ羨ましいとは思うものの、場所をわきまえない喧嘩には眉根を寄せてしまう。
　夏朝はは気を取り直して、まずは絵本を読んでオーナメントについて知ろうと、資料の集まるコーナーへ足を伸ばす。お揃いの小さなツリーを『２つ』作ることだけは、心に決めて。

　資料コーナーには、幾人か先客がいた。買い物帰りなのか紙袋をさげた人も多く、特に稲積柚春は熱心にオーナメントの逸話について調べているようだ。
（友情や助け合いの意味もあるのかぁ……）
　ただ単に、綺麗に飾るだけではないらしい新たな発見に、柚春はそわそわと理想のツリーについて考える。転校ばかりで長く付き合える友達などいなかったけれど、願掛けでもすればその夢も叶うだろうか。
（引っ越しの荷物になるからって、こういう飾りは家にないし……うん、ちょうどいいかも）
　調べれば調べるほど、ツリー１つに物語があることを知って興味が出てくる。
　しかし、そんな彼女を資料へ集中させてくれないのは、やっぱりカップルの喧噪だ。ちらり、ちらりと集まった人々が視線を寄越すのも気にせず、口論は白熱するばかり。
　時間を改めて来ようか。そう考える人もいたのか、資料コーナーやサンプルの飾りを眺めただけで、オーナメントを作らずに帰ってしまう人もいた。
　作る物を決めている夏朝と柚春は、帰っていく人を眺め、ふと残ってしまった者同士視線が合う。苦笑いをしていても、カップルは落ち着いてくれる様子はないし、スタッフさんがほとほと困っているのもわかる。
　さて、どうしたものか――、そう思ったときだ。

たびがらす　つくよみ　が　あらわれた！　

　つくよみ　は　こうしょう　してきた！
「あの喧噪を止めるため、雑学を愛する魔女と相席でもしないか？」
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　▼

　コマンド？

　どうでもいい
　そっとしておこう
▶雑学……？

「あなたの雑学で、あの喧嘩を止められるんですか？」
　柚春もちょっとした案はあるものの、ただの気休め程度の物しか思いつかない。夏朝に至っては、できるだけ関わりたくないと思っているのか、不安そうにカップル達を横目に見るだけだ。
　旅鴉月詠は柚春の返答を興味があると受け取ったのか、ニヤリと笑って声を潜める。
「オーナメントには逸話がある。それは君たちが調べている通りだ……その知識程度なら、私にもある」
「つまり……？」
「大声で一芝居うつので、適当に相づちを打って欲しい。礼は君たちの理想とするオーナメント作りに協力することだ」
「相づちを打つだけで、理想のオーナメント……！」
　願いの大きさに何を作るか考えあぐねいていた夏朝は、魔女の囁きにピクリと反応した。
「そして私は芸術科だ。仕上がりも保証しよう」
　なんとも心強い言葉に、夏朝と柚春は目を輝かせて頷く。
「ぜひ、お願いします！」
「僕も……喧嘩が収まる上に、相談にのってもらえるなら……」
「交渉成立だ。それじゃあ、適当に材料を持って席に着こうか」
　どんな物を作りたいのかという話をしながら材料を選ぶ様は、スタッフが求めていた仲良くオーナメントを作る友達同士。たとえ本当は初対面のぎこちなさがあっても、作戦のための緊張があっても、そんなものは気にならないくらいにスタッフも喧嘩するカップルに困っていたようだ。
「手作りオーナメントの体験会です！　お気軽に参加してくださいっ！」
　呼び込みの声が、少しだけ元気になった気がした。

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オーナメントにご用心？

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