オーナメントにご用心？｜リアクション

オーナメントにご用心？

　一方、先に材料を手に集まっていた月詠たちはというと、３人で材料も多いからと言う理由で喧嘩しているカップルたちの近くに席をとった。
　もちろん、わざわざそこを選ぶ人は少ないため、多少材料を広げたところで邪魔にならない。２つ分の素材を購入した夏朝は、そういった意味ではホッとしていた。
「どれ、そろそろ一芝居でも……空いてる席があって良かったよねー！」
「は、はい。欲張りすぎ……ちゃった、かなー？」
　月詠の大声に合わせ、元気に返事をしようとした柚春だが、少々わざとらしいくらいの大声に顔が引きつってしまう。月詠は「無理はするな」と小声で返すが、いかんせん場に合わせた振る舞いをしようと無理がたたってしまうのは、転校を繰り返したさがだろうか。
　そんななんとも言えない、喧嘩と大きな独り言が聞こえる空間に有無を言わさず参加させられた森篠琳子は、気まずい雰囲気に言葉も出なかった。
（私は散歩していたのよね……？）
　卒業まであと少し。年を越えてしまえば、バタバタしてゆっくり思い返すこともないかもしれない。少し考えたいこともあってふらりと歩いていたはずなのに、どうしてこうなったのか。
　さっきまでは……そう、進路について考えていた。進路は決まっている。何の問題も起こさず卒業さえすれば寝子島信用金庫への就職となり、春からは社会人だ。全てが希望通りとまではいかないが、残された選択肢の中からは有意義な物を選べたとは思う。
　もし、父親がお人好しで無かったのなら……せめて、元気であったなら違う選択も出来たかもしれないけれど――と、苦言するつもりも毛頭無い。これは母と小さな妹を守るために、自分で選び取った進路のはずなのだから。
（切り替えなきゃ。子供で居られる時間は、あと少しよ）
　この靄はきっと、自分が卵の殻に閉じこもっているから纏わり付く物だ。殻を割って大人になれば、きっとどこかに吹き飛んでくれると信じたかったのかもしれない。
　――なんて、冷たい風に吹かれつつ色々と思いを巡らせていたはずなのに、必死な形相で助けを求められたのだ。「オーナメント作ってみませんか!?」という言葉をそのまま言葉通りに解釈していいものか疑問が残るくらい、スタッフの形相は彼女をビビらせたけれど。無用なキャッチなど凜と断れる真面目な長女気質の琳子にとって、それは想定外のことだっただろう。
（モヤモヤしてたから、気分転換にはなる……かな？）
　とはいえ、穏やかにオーナメント作りとはいかないようで。小さくため息を吐いて、琳子は妹が好みそうなオーナメントを作ってみることにした。
　材料のコーナーには、妹と同じ年頃の瑠樹がわくわくしたようにオーナメントを選んでいる。
「どんな物を作るか決めているの？」
　見たところ、近くに保護者がいる風でもない。琳子は気まずい状況下もあり、瑠樹の様子を窺うように声をかけた。
「えっとねぇ、小さなツリーを作るんだぁ。あと、ふわふわする物もつけたいねぇ」
　カゴには、トップスターにりんご、ベルに赤と緑のリボンが入っている。ツリーにつけるふわふわした物と言えば、雪に見立てた白い綿が定番だろうか。
「単純に綿……もいいけど、フェルトで何か作るのもいいわね」
　サンタクロースの帽子やプレゼント袋であれば、そんなに難しくもないだろう。布用接着剤を使えば、怪我の心配もないはずだ。
　そう提案してくれた琳子に、自分でも作れそうなふわふわがあると気づいた瑠樹は満面の笑みでお礼を言う。
「難しかったら声をかけてね、手伝ってあげるから。あと……リボンはそれでいいの？」
　クリスマスカラーな赤と緑のリボンだが、もしツリーに飾るのなら緑の葉に緑のリボンは埋もれてしまう。もっと明るい色でも良いのではと、琳子はそれとなく尋ねた。
「赤と緑のリボンを一緒に括ればねぇ、愛でも友情でもきっといい方向になるよぉー！」
「……そう？」
　資料コーナーに立ち寄らなかった琳子には、あまりピンとこない話題だったのかもしれない。けれど、もしかしたら小学生で何かおまじないでも流行っているのかと思い、妹のために赤と緑のリボンを使った飾りをあしらってみようと思うのだった。

このページにイラストを設定する