オーナメントにご用心？｜リアクション

オーナメントにご用心？

　やっとオーナメント作りの会場に相応しい和やかさを取り戻したと思ったのだが。仲良く指を絡めた城山水樹とヒュー・ヒューバートが会場を訪れる頃、その場は冷たい風が吹き抜けていた。
「なに、これ」
　二人は偶然、同じ日に都内で仕事があった。先日デートをしたばかりだけれど、次に会うのはクリスマスまでお預けのはずで、「どこかで会えるかも」なんて冗談が本当にならないかと願っていたくらいにはお互い忙しい。
　まさか帰りの電車で一緒になるなんてと驚いたが、これからの時間はオフ。折角ならと、寝子島に胸をときめかせながらデートにきた……はずだが。
「えっと……オーナメント作り、のはずですよね。クリスマスの」
　ここまで案内してくれたスタッフに確認するヒューも、動揺が隠せない。もっと明るく、水樹が笑顔になれるような場所を想定していただけで、落胆させるどころか驚かすつもりもなかった。
「いやぁ……色々とあった、みたいで」
　言葉を濁すスタッフに、二人は顔を見合わせる。周りの状況から見て、高校生ほどの男の子が凄く気を遣って話しかけている男女が、喧嘩でもしたのだろう。で、火は幾分か消火したもののくすぶっているか、喧嘩をした後の気まずさの最中といった所か。
　よほど喧嘩が大きかったのか、その反動で落ち込む空気は、周囲の一部を凍らせるように重く暗い。
「タイミングが悪いわね……」
「場所を移そうか？」
「そうじゃないの。あの二人がね、こんな所で喧嘩だなんてついてないなぁって」
　何でも最初から阿吽の呼吸で出来るわけもないし、思い合っているからこそ衝突して、それがすれ違ってしまう原因となる……それは、わかるのだけど。水樹は作成見本として飾られているオーナメントを見て、幸せに過ごすことができるのに、なんて勿体ないんだろうと去年を思い返した。
　夏に最悪の恋の終わりを迎えたあの時は「クリスマス何それ美味しい？」の心境で、それはもう余りに余りだったので「二度と恋とかするか！」と息巻いていた。それが――。
「そうだね、可愛らしい物に囲まれてるのに」
　隣で柔らかに笑うヒューを、あのささくれ立っていた自分へ教えてあげたいと思う。もう少し、クリスマスの当日まで待てば素敵な人に出会えるのよって。きっと、信じはしないだろうけど。
「そのうち仲直りするでしょ」
　戻らない縁もあるけれど、下手に介入して拗らせるなんてたまった物じゃない。水樹はあの二人については気にすること無く、ヒューとデートの気持ちに切り替えた。そのさっぱりとした切り替えに、今回ばかりはヒューも同意せざるを得ない。
「僕たちが口を出すことじゃないしね。なら何を作ろうか、資料もあるみたいだけど……」
　二人仲良く連れ添って、資料コーナーであーでもないこーでもないと話し合う姿は幸せなカップルそのもの。スタッフはさっきまでと違った涙がこみ上げてくるのを、必死に堪えていた。

　重苦しい空気の原因となっている二人は、少し離れた席でオーナメントを作りつつ互いの様子を気にしていた。いつでもサポートに入れるよう、武道と煉も付き添っているのだが、カップルたちが会話する様子はない。
「おっ、おすすめの林檎や杖に、赤いりぼんをつけたら可愛いよ☆　うん！」
　可愛くって、彼女の喜びそうな意味合いになるそれなら大成功間違いなしと、材料を選んでいたときは笑顔が戻ってきていた彼氏も、彼女のどんよりした顔に不安が募る。彼女は彼女で、あんなに酷いことを言ったのに笑顔で戻ってきた彼氏を見て、自分のことなど吹っ切ってしまったのだと落ち込んでいる。
「先延ばしにすると、余計にタイミングが難しくならないですか？」
「うん、でも……なんだか忙しそうだし」
　話さなければとタイミングを伺ってはいるようだが、熱心にオーナメント作りを再開してしまった彼氏の手を止めるわけにもと遠慮している。どう見ても、彼女を喜ばせるために奮闘しているようにしか見えないのだから、声をかけても大丈夫だと思うのだが。
「なら、あのオーナメントを飾る土台を選びに行きましょうか」
「え？」
「見たところ、お二人はオーナメントだけ作って交換する予定だった。けど、お互いに選んだ物を組み合わせたら、素敵な共同作品になると思いませんか？」
「共同作品……そ、それなら声をかけても邪魔しないかしら？」
　煉の言葉に背中を押され、彼女もぎこちない微笑みを見せる。この重苦しい空気も、あと少し――というわけにはいかなかった。

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