【夢がいっぱい、めいっぱい】

「ふわーっ。良く寝たッス！」
　大あくび。古尾 桐子はくしくし目をこすりながら、むくりと起き上がります。
「う～んっ、良い朝ッスね～」
　カーテンをしゃーっと開くと、太陽さんさん！　気持ちのいい朝日に包まれて、桐子は伸びをして、にへらっと笑いました。
　それにしても。
「なんだか、不思議な夢だったッスねえ」
　ぐっすりすやすや眠っている間にも、桐子の豊かな想像力は止まることを知りません。実にいろんな夢を見ていたような気がします。
　剣の王とかいうお兄さんが活躍する、いかにもファンタジーな夢。
　トドになってしまい大慌て、な夢。海賊の船旅を映した、ちょっとオトナな夢。
　優しそうなお姉さんとお兄さんの結婚生活を見守る夢。
　干支の世界で初詣する夢に、ヤンキーのお兄さんがのし上がっていく夢。
　紫陽花の精と語らう、時代劇な夢。ＳＦチックな、カプギア？　の夢。
　お姉さんたちのどきどきで幸せな夢。スチームパンクな寝子島のバトルな夢。
　八百万の神々が大宴会、な夢。
　どれもこれも楽しくて、わくわくしてしまう夢ばかりでした。中にはけっこー、ハードなものもありましたけれど。
「ま、夢の中の話ッスからね！」
　桐子はけろり、あっけらかん。
　そう。夢は無限大です。どんな可能性も内包し、どんな自分にだってなれるし、どんな世界にだって行くことができるのです。桐子の空想エンジンにかかれば、ありとあらゆる夢を創造することができるでしょう。
「っと、いけねッス」
　お父さんが、そろそろ起きろよ～と呼んでいます。気付けば朝ごはんの良い香りが漂っていて、桐子のお腹はきゅるると鳴りました。
　朝ごはんのエナジードリンクをくぴくぴと飲みながら、お父さんは学校へ行く前にポチの散歩を頼む、と言いました。
「ラジャーッス！」
　ポチのお散歩は、桐子の日課です。うちへやってきた頃のポチはあんなに小さかったのに、今ではずいぶんと大きくなって力も強くなり、振り回されて苦労もしますけれど、それもまたペットを飼う楽しみというものでしょうか。
「それじゃ、行くッスよ～ポチ！」
　ぎゃおおん！　と鳴いたポチを連れて、お散歩へ出発！
「ポチ、今日も元気ッスね～」
　ポチは３歳のティラノサウルスで、まだ体重は１トンもなく、性格もちょっぴり臆病。隣を歩く桐子にぴったりとくっついて離れませんけれど、それがまた可愛いのです。病気ひとつもせずここまですくすくと育ってきたので、このままどんどん大きくなってくれたらいいな、と桐子は思います。
「おー！　ポチ、見るッスよーあれ！　今日はコロニーが良く見えるッスね～」
　エメラルドグリーンの空には、冥王星横の第四植民コロニーがぷかりと浮いているのが見えました。今日もすがすがしい青空が広がっていて、雲の合間にはクラゲの群れやクジラも気持ち良さそうに泳いでいます。
　桐子はすっかり、ご機嫌です。
「おっはようございまーッス！」
「あら桐子ちゃん、おはよう」
「これから学校かしら？　気を付けていってらっしゃいね」
　世間話にふける近所の奥さんたちにも元気よくご挨拶。いつもの散歩コースでこのあたりを通るもので、顔なじみなのです。
「ねえねえ奥さん、最近膝のアクチュエータの調子が悪くって。何か良いサプリメント、ご存じないかしら？」
「それよりちょっと、聞いた？　隣町でまたゾンビが出たんですって！」
「まあ本当に？　このあたりにまで来ないかしら、怖いわねぇ～」
　すれ違いざま、そんな話が聞こえてきます。
　もちろん桐子も子どもながらに、世界が幸せだけでできているわけではないと知っています。大なり小なり、誰でも苦労や恐れを抱えているものです。
　あの雲のように流れ流れて、浮いては沈み、沈んでは浮くものなのです。
「この世はショギョームジョーッスねえ。ねえ、ポチ」
　ぎゃうん？　と首を傾げたポチの首のあたりをナデナデしてやりながら、桐子はふと、昨夜に見た夢たちを思い出します。
　不思議な夢……けれどなんだか、なつかしい夢。
　幸せで美しい夢もあれば、険しい道を行く夢もありました。
「夢の中でも苦労はあるんッスね……っと、まずいッス！　学校始まっちゃう、急ぐッスよーポチ！」
　ぎゃおおおん！
　桐子はそんなとりとめのないことを考えながら、うぃーんがしゃんと元気に駆けていきました。









「ふわーっ。良く寝たッス！」
　大あくび。古尾 桐子はくしくし目をこすりながら、むくりと起き上がります。
「う～んっ、良い朝ッスね～」
　カーテンをしゃーっと開くと、太陽さんさん！　気持ちのいい朝日に包まれて、桐子は伸びをして、にへらっと笑いました。
　それにしても。
「なんだか、不思議な夢だったッスねえ」
　ぐっすりすやすや眠っている間にも、桐子の豊かな想像力は止まることを知らないのです。
　ティラノサウルスをペットに飼うだなんて！　桐子は夢の余韻に浸りながら、身支度を整えます。
　今日は学校へ行く前に、ちょっぴりだけ、友だちとカプセルギアでバトルする約束なのです。いわゆるひとつの、朝練というやつです。
『マスター。急がないと遅れてしまいますよ』
「分かってるッスよー、トルーパー！」
　急いで服を着て、相棒のカプセルギアを引っつかむと、桐子はどたどたと部屋を出ます。
　お父さんの呼ぶ声に、気付けば朝ごはんの良い香りが漂っていて、桐子のお腹はきゅるると鳴りました。
　目玉焼きの乗ったトーストをががががっと食べ、洗面所に駆け込み歯を磨き、顔を洗って、
「…………？」
　あれ？
　カプギアって、しゃべるものだったッスかね……？
「っと、いけねッス！」
　時間ギリギリ、このままでは遅刻してしまいます。
「いってきまーッス！」
　広がる青空の下、今日も慌ただしく、けれど元気いっぱい！　桐子は駆けていきました。



























「ふわーっ。良く寝たッス！」