【終盤戦】
　緑の駒に攻め込んでいた円さんと真白さんはギアの性能を十二分に活用した立ちまわりと、抜群のコンビネーションで順調に王手へと戦局を進めていました。


「アイちゃん。ビットの操作、お願いね。じゃ、真白ちゃん突っ込むよ」


「おーけー。ほら、そこのナイト、邪魔邪魔ァ！」

　円さんはベリアルの頭部から発する炎による蜃気楼、真白さんはネージュリェーツに構えさせたシールドを使って、危険を承知で一気に緑の王の陣地にまで突き進みます。
　当然、ポーンの残党やキングを護衛するナイトがここぞとばかりに群らがり、さらにその後ろには回復役のビショップが控えているのですが――。
「ポーンの自爆とビショップの回復が厄介だねー。でも――」
「――これは、チャンスだね」
　次の瞬間、円さんと真白さんは一瞬の目配せの後、即座に状況を打開する一手を放ちました。
「アイちゃん、そこの点滅しているポーンをあっちのビショップに投げちゃって！」
「そっちのビショップも、よそ見してると危ないよ！」
　ベリアルは近場にある点滅ポーンを手で掴んで投げ、ネージュリェーツはシールドバッシュでポーンを吹っ飛ばし、それぞれを近場にいたビショップのそばにやると――。
「タイミング合わせて、真白ちゃん！」
「いっけぇぇぇ！」
　二人同時に炎とビームを発射！
　自爆直前だったポーンをボム代わりにして、緑のビショップを一撃必殺で撃破しました。
　この極めて有効な戦法によって、瞬く間に緑の駒は数を減らし、ついに彼女達はキングの目と鼻の先まで辿り着きます。
　その頃、青の駒をメインに戦っていたカノンくんとレオンくんも、同じくナイトを回復するビショップを倒すために一計を案じることにしました。
「……にーちゃん、おれがナイトをひきつけるから」
「……わかった。ビショップは俺に任せとけ！」
　一瞬にして作戦を理解し合った二人は、すぐさま行動を開始します。
「ニャーサー！」
　カノンくんが命じれば、キングニャーサーが剣を大胆に振りまわしながら、青のみならず赤・黄のナイトを華麗にビショップから遠くへ引きつけていきます。
　当然、単独で多くのナイトを誘き寄せることには多くのリスクが伴いますが――。
「後方支援なら任せるのですよ！」
　と、そこでマンモスさんの「ぐれーと☆まんもす」が適切なタイミングで援護射撃！
ナイトが密集してきたタイミングを狙って一撃必殺のミサイルを発射し、最小の手数で最大の戦果を狙います。
「マンモスちゃん、援護ありがと！　よし、頑張れニャーサー！」
　カノンくんもまた誘き寄せるばかりでなく、ニャーサーの剣を使ってナイトと切り結び、ある程度のダメージは覚悟で大胆にナイトの数を減らしていきます。
　押し寄せるナイトの軍勢に対抗するために、瑠樹さんや蒼くんも駆けつけました。
「ラズちゃん、確実に数を減らしていくよぉー」
「結構すばしっこいのね。でも、Diablo Azulなら当てられる！」
　ラズちゃんはわっかビーム、Diablo Azulは240mm中距離用無反動キャノン砲をそれぞれの間合いから放ち続け、適切かつ迅速にナイトの数を減らしていきます。
「パールシエル、あの子のギアを回復して」
　ダメージが蓄積したタイミングで、回復役の稀跡さんがパールシエルで修復行動。
　マンモスさんが後方支援役、稀跡さんが回復役に徹してくれるおかげで、前・中衛の3人は自分達の間合いでダメージを気にすることなく多数の敵と戦うことができていました。
　そして、その隙に――。
「オーケー……アタランテー、GO！」
「ふふふ。ナイトのいないビショップなど、ナデシコにとってはただの的なのです」
　その隙に、アタランテーを操るレオンくん、そしてどこからともなく現れた姫さんとナデシコのそれぞれの矢が、一機一機のビショップを確実に射抜いていくのでした。
　一方、桃色のナイト・ビショップを相手にするのは、雪人くんと怜理さんの援護射撃を背にトライアルγで単独に桃の駒と戦うスピカさんです。
　ポーンとルークの群れの猛攻をしのぎ、怜理さんと雪人くんという頼もしい後方支援役も得たスピカさんは、ここで一気にナイト＆ビショップを一網打尽にすべく賭けに出ました――。
　攻性デコイを展開しながら、機銃を乱射しつつ、高機動で敵を撹乱。
　高威力の本体左腕の圧縮波動砲で、一気にせん滅する作戦でした。
「……早いわね。サンダルフォン、間違ってあの子のギアに当てないように気をつけて」
　怜理さんは、トライアルγの速度に驚きつつも、冷静にサンダルフォンに指示を続けます。間違って当てないように撃たないのではなく、間違っても当てないように撃つというのは、並の中学生の胆力では出来ないことです。
「……無茶するね」
　隣にいた雪人くんも、これにはやれやれといったふうに小さく肩をすくめつつ――。
「ま、僕も人のことは言えないけどサ」
と、雪人くんもまたトライアルγの動きを正確に目で追いつつ、的確にボナパルト2のBスナイパーライフルで援護射撃を続けていきます。
そして、トライアルγと各デコイの武器のチャージが完了した瞬間。
「……トライアルγ」
　スピカさんが小さく呟けば、まるでバケツリレーのように一機一機のデコイから順番に間隙なく高出力のチャージ武器が放たれていきました。
　ひとつ、ふたつ、みっつとナイトとルークが撃墜されていきましが、それはあくまでジャブでした。
　本命は、トライアルγ本体の超高出力波動砲による、必殺の一撃です
「圧縮波動砲――発射」
　刹那、トライアルγの左腕から極太の圧縮波動砲が射出！
　強大な波動は、一直線上にいたナイトとビショップをまるっと飲み込み、さらには機体の動きにあわせてさながら左右に剣のように薙ぎ払われて、残ったビショップとポーンも逃がさず撃墜していきます。
「武装は、少ないけど……その代わりの、高火力……」
　スピカさんは決め台詞のようにそう言うと、ついに目前に迫った桃のクイーンまで一気に加速を始めます。
　チェックメイトまで、あともう少し――。