【詰めろ】
　そんな子供達の戦いを、柚春さんは遠くからただじっと見守っていました。
「……凄い。でも、まだ一番強そうなのが残っている……」
　その瞬間、柚春さんは、今の今までほとんど動きを見せなかったキング（クイーン）の駒達が唐突に火やら雷やらのエフェクトをまき散らして派手な攻撃を始めました。
「……っ」
　それは、思わず息を詰めてしまうほどの激しい攻撃。
　と、同時に、反射的に握り締めていた持ち主不明のギアの感触が、ふと柚春さんに我に返らせます。
「……やはりキングとクイーンは強敵のようですね。気持ちとしては駆けつけたいですが……」
　悔しそうに滑り台の上で呟くのは、さきほどまで防御無視で決死の支援射撃を行っていたマンモスさん。
　ずっと戦況を俯瞰していた彼女だからこそ、この状況でノコノコと出ていっても、的にしかならないことをわかっているのです。
　そんな状況の中で、
「……僕にもできることがあるなら」
　それは、何かの意思に導かれるように、柚春さんはAICOをスマホにダウンロードし始めます。
　その間にも、5色のキングはそれぞれに相対するギアマスター達に強力な攻撃をしかけていました。
　まず円さんと真白さんと相対する緑のキングは、展開した魔法陣から出現する無数の木で２人のギアの進路を阻みました。
「うわぁ、いいなぁ、あのパーツ。頭とボディ、どっちだろ？」
　と、楽しそうな声を上げたのは真白さん。
「へー。木の実までついてる。凝ってるねぇ」
　感心したように言いつつ、円さんも応じるようにベリアルに炎で反撃させます。
　すると――、木が燃えただけでなく、木の実が爆発し、激しいエフェクトがそこかしこに発生します。
「お、爆発した。やっぱりかー」
「わー、ますますいいなぁ。欲しいって言ったらくれないかな？」
　二人は動じずに、淡々とチェックメイトに向けて次の一手を打ちます。
　蜃気楼を発生させて、キングの距離感を狂わせて命中率を下げる円さん。
　パーツに興味津々になりつつも、ちゃっかりヤドリギトラップを仕掛けていく真白さん。
　そして、上手くトラップが緑のキングを捉えたその刹那――。
「さぁ、これで終わり！円ちゃん合わせて！」
「アイちゃん、ビットでキングを追い込んで！　そこだ！！」
　ビットとヤドリギで退路を塞がれたキングにネージュリェーツのビームとベリアルの炎が直撃！！
　次の瞬間、緑のキングはヒットポイントをゼロにし、その動きを止めたのです。
「やったね、円ちゃん！」
「うん！　でも、喜ぶのはまだ早いかも！　他の子達を助けにいこ！」
「おーけー！」
　そうして、円さんと真白さんは仲間達の支援にまわります。

　同じ頃、桃のクイーンに王手をかけるべく、スピカさんも圧縮波動砲の再チャージを進めていました。
「……キャンドルと……炎がジャマ……」
　アウトレンジから最大出力の波動砲で決着をつけたいスピカさんにとって、クイーンの発生させる炎とキャンドルは非常に厄介なものでした。
　それは、Bスナイパーライフルを主兵装とするボナパルト2にとっても同様で――。
「……うーん。参ったね。本当に今回の相手は相性が悪いな……」
　ぽつり、と呟く雪人くんの横顔にはめずらしく不満そうでした。
「……サンダルフォンのミサイルならキャンドルを迂回することはできても、遅いから打ち落とされてしまう。どうすればいいかしら？」
　ふうむ、と唸ったのは怜理さん。
後方支援役に徹するスタンスは変わらないとしても、このままでは支援のしようがありません。
と、そのとき。
「……つまりミサイルが届くまで、敵の意識を引きつければいいのですね？」
「あら、あなたは……」
　どこからともなく現れた姫さんに、怜理さんは目を見開きました。
いったいいつからそこにいて、いつから話を聞いていたのやら。
「ナデシコの得意分野は隠密ですが、スタイリッシュニンジャたるもの陽動もこなせないようではどうしますか。というわけで、囮役は引き受けたのです。他の２人もよろしいですね？」
　姫さんの言葉に、雪人くんは頷き、スピカさんも『協力感謝する……こちらもデコイをいくつか囮に出す……』と了解のメッセージが。
「ふふふ。では、ナデシコ。敵のボスを仕留めにいきますよ。今宵の虎徹はよく斬れるのです」
　くすくす笑うと、姫さんがスマホをスワイプさせてクイーンに正面から突撃。
　クイーンはキャンドルで行く手を阻み、ついでにキャンドルの炎でナデシコを焼き尽くそうとしますが、巧みな操作で姫さんは炎を寄せ付けさせません。
　ときたま、まだ残っていたポーンやらナイトやらがナデシコに向かうこともありますが、「ま、これくらいの仕事はしないとサ」
　と、冷めた表情の雪人くんが淡々とそれを撃ち落とすので問題になりません。
「サンダルフォン、ミサイル発射。できるだけ、静かにね」
　そこで、満を持しての怜理さんのサンダルフォンによるミサイル発射！
　ミサイルは大きく円を描くようにクイーンの背後に回り込み――。
『!?!?!?』
　クイーンが気づいたときには、すでにその射程内にまで入り込んでしました。
「……ここで……挟撃……！」
　と、そこでスピカさんがトライアルγから波動砲を発射！
　波動砲とミサイルのWアタックは寸分の狂いもなくクイーンに直撃。
　かくして、緑のキングに引き続き、桃のクイーンを詰ませることにも成功したギアマスター達。
　ですが、
「……まだ……青と黄と赤がいる……」
　スピカさんが言うように、キングはまだあと三体残っているのです。
「あっちは苦戦しているようね。助けに行きましょう」
　怜理さんの言葉に、頷く一同。
　彼らもまたいまだ戦い続ける仲間達のもとに急ぐのです。