占い少女のトリックオアトリート｜リアクション

占い少女のトリックオアトリート

◆迷い猫の行く末

「えっと、君がイムイムさんだね」
「ん？　なんだ？」

　放課後の旧市街では帰路に着く学生たちが行き交っていた。その様を窓から眺めている少女イムイムに万条幸次が声をかける。幸次は店員に案内されるがまま彼女の向かいに座って、メニューを開いた。

「ちょっと占いをお願いしたくて……メニューの中にある好きなケーキどれでも頼んでいいよ」
「本当か！？　ありがとう！　じゃあこれを頼むのだ」

　彼の言葉にぱっと笑顔になったイムイムは躊躇いなくそれを指さした。それというのはメニューの中で一番高いケーキである。

（あ、一番高いやつにするんだ……いや好きなのって俺が言ったからいいけど）

　と苦笑いする幸次の心は露知らずに彼女はカードの点検を始めた。しゃかしゃかとカードを切りつつイムイムは幸次に向き直る。

「で、どうしたのだ？」
「それが進路っていうのかな。将来の夢が特にないままここまで来ちゃって……小学生のころはとにかく動物が好きで、動物のお医者さんになるって言ってたんだけど」
「けど？」

　彼女の問いに幸次は一拍置いてこう続けた。

「普段勉強もやる気でないし獣医なんて向いては無いと思うんだ。でも他にあるわけでもないし……どうしようって」
「ふむむ……小さいころのバンバンはどうして動物のお医者さんになろうと思ったのだ？」
「それは……『花見』っていう名前の飼い猫が亡くなった時から言い出したような気がする」
「どんな猫だったのだ？」

　それから幸次は『花見』について語り始める。迷い猫としてやってきたおばあちゃん猫だった。ずいぶんと高齢だったから一年しか一緒に居られなかったが、幸次にとって今も思い出に残っている存在だった。

「将来獣医になれば同じような子を助けられると思ったんだろうなあ」

　それを最後まで聞くとイムイムはゴクリとお冷を飲み込み、なんだか神妙な面持ちになり、懐からカードを取り出しては机の上に並べていく。幸次がカードを繰るイムイムの手を眺めていると、イムイムは突然腕を組み、唸り始めた。

「わかったのだ！　早速占っていくのだ！　んむー……んむむむむー……」

　イムイムは何か天啓でも得たかのようにピンと立ち上がり、すぐさま座ってカードを開き始めた。Vの字に分かれたカードの中の輪のようなものが描かれたカードと四本の剣が描かれたカードを指しながら彼女は口を開く。

「どちらの道に進んでも、バンバンが自分の状況に納得している姿が見えたのだ。ただ……どちらの道に行っても試練が待っているのだ……だから、どれだけ苦労してもいいって思えるかが大事だと思うのだ」

　そう言ってから、イムイムは届いたケーキを食べ始めた。幸次はイムイムの返答を聞くとうーんと唸り、天を仰ぐ。

「そっか……一度考えてみるよ。占いは参考にするけれど、最後に決めるのは俺自身だから……」
「うむ！　そのくらいが良いと思うのだ。あまり気にしすぎると運命も悪い方に流れてしまうのだ」

　それから二人は無言になり沈黙が流れた。彼はイムイムの方に視線を移し店員を呼ぶ。

「そういえばケーキだけじゃ物足りないか、クリームソーダも追加するよ」
「本当か！？」
「今日はありがとう」
「いや、こちらこそありがとう！」

　代金を置いて去っていく幸次を見送りつつ、イムイムはケーキに舌鼓を打った。そうしているとカランカランとドアベルが鳴る。彼女は視界の端に見えた人影に振り向いた。

「お？　次の人、どうぞなのだー」

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