温もりをください｜リアクション

温もりをください

　放課後、八神修は射撃部部活が終わるころに寒さに直面しました。
「なんだ、この寒さは？」
　片付けを済ませロッカーからコートとマフラーを出して、体温低下を防ごうとしますが。
「暖かくならないな」
　壁の温度計を見てもそれほど低温ではありません。
　疑問を感じた修はスマホを取り出しねこったーで情報収集しました。
「突然の寒さ、触れないと暖まれない……？　神魂異変だな」
　しかしそう推理している間にも、指は寒さで凍え動かなくなりそうです。
　危機感を覚えた修は帰宅しようと昇降口に向かいましたが。
「待てよ」
　ふいに校長室の３匹の猫達のことを思い出しました。
（小型の生物である彼等には命に関わる。様子を見に行こう）

　校長室へ向かう途中。
「あ、修くん」
「あおい、大丈夫か？」
　思いがけず七夜あおいと出会いました。
「うん、大丈夫だよ。修くんは？」
　しかしあおいの顔は青ざめ、表情もこわばっていました。
「大丈夫なものか。吐く息が白いし、震えているじゃないか」
　そう言うと修はコートを脱ぎました。
「修くん？」
　驚いているあおいに、少しでも暖かくなればと脱いだコートを羽織らせようとします。
「そんな、修くんが寒くなっちゃうよ」
　固辞するあおいに、修は首を振ります。
「俺は大丈夫だ」
　好きな女性の為なら強がりも強がりじゃない、と思っている修なのです。
　コートを着せようとして、修の手があおいの肩に触れました。
　その時、修は触れた手から暖かさが広がるのを感じました。
　あおいも驚いた表情になり、そのせいか少しリラックスしたように見えます。
（触れると暖かくなる……？）
　修はねこったーで見た書き込みを思い出しました。
　そして取るべき行動に思い至ったのです。
（だが、いきなりではあおいに恥かしさで辛い思いをさせてしまう）
　まずは受け入れやすいよう説明することにしました。
「あおい、ねこったーで集めた情報から推測するに、どうやら他の生物との接触で凍えを防げるようだ」
「それで修くんに触ったら暖まったのね」
「ああ、だから緊急避難だよ。実は俺も寒いんだ」
「じゃあ、側に寄ったほうがいいのかな……温めてくれる？」
「ああ、もちろん」
　まだちょっとためらっている様子のあおいに修はうなずいて、手を差し出しました。
　あおいが触れてきた手からみるみるうちに温かさが広がります。
　ときめきつつ冷静に対応しようと努める修でした。
「そうだ、実は校長室の猫達のことを思い出してね」
「猫？」
「そう、３匹いるからもし彼等が凍えていたら俺１人では抱き締めきれない」
「それじゃ、私も行くよ」
　協力を申し出てくれたあおいに、修は心から感謝するのでした。
「ありがとう、助かるよ」

　校長室に着いて。
　トントン。
　ノックしてみましたが返事はありません。
「ミャー……」
　か細い鳴き声が聞こえてきました。
「放課後だし校長先生は不在だと思う」
　そっと扉を開けて覗くと、３匹の猫たちはうろうろと落ち着かない様子で歩き回り、震えていました。
「撫でて安心させよう」
　触れると、そこから温かさがじわっと広がってきます。
「大丈夫だよ」
　あおいも別の猫を撫でています。
「それにしても、猫のことを忘れないなんてさすが修くんだね」
「いやあ……家に家族同様の猫たちがいるからね。頑張って猫達を護ろう」
「そうだね。修くんの猫たちは大丈夫？」　
「賢い猫たちだからきっと大丈夫だろう。この子たちはまだ経験不足だからね」
　猫たちを抱っこしながら、あおいとほのぼの過ごす修です。
「猫たんぽ、ぬくぬくだなあ。心までぽかぽかしてきたよ」
「ほんとだね」
　頷くあおいもすっかり笑顔を取り戻していました。

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