温もりをください｜リアクション

温もりをください

　清楚げで淑やかなイメージがある吉住志桜里は、突然の寒さに凍りついていました。
「嗚呼もう、一体誰に断って何で急にこんな寒くなったの！？」
　急いで周囲を見回す志桜里は、誰かを探しているようです。
（このままじゃやってられないわ、幸い人肌にはあてがあるから）
　志桜里の視線が、メガネにポニーテールの少女を捕らえました。
　一足先に部屋を出たルームメイトの卵城秘月でした。

（ふぅ……朝は寒いね、ちょっと寝不足もあって体は冷え気味かな。まぁでも体を動かせばどうとでもなるし）
　秘月が、早めにグラウンドで一汗流そうかな、などと考えていたとき。
　背後に迫る気配を感じました。
「えっ？」
　次の瞬間、予告も躊躇いも全部捨てて、志桜里が秘月をがっちりベアハッグ！
「はぁーーーー秘ぃの人肌気持ちぃーーーー……」
「な、何？」
　急に抱きしめられて驚きつつ秘月が振り向くと、ルームメイトの志桜里がすがりついているのでした。
「っと朝の情熱的な挨拶にしても激しすぎるんじゃないかな？」
　顔を少し赤くしつつ冗談まじりに抗議（？）する秘月ですが、唇が青ざめて異様に寒そうな志桜里に気づきました。
（うーんいつものあれかな？　それじゃあ仕方ない……かな？）
　最近慣れてきた神魂的な事象かなと思い至る秘月。
　いくらか寒さが落ち着いた志桜里は、そんな声もどこ吹く風で、目を細めて風当たりに冷えた顔を秘月の髪に埋めていきます。
「香り、髪質、丁度良いモフり心地。いいルームメイトを持ったものだわ」
　髪フェチの志桜里のこだわりに、秘月の髪はまさにベストな味わいでした。
（抱き着かれたが運の尽き、気が済むまでモフらせて頂くわ）
　しかし実は、喜んでいるのは志桜里だけではありませんでした。
　実は肉体フェチである秘月も、志桜里を抱きしめて役得とばかりに体を撫でまわして堪能しようとしていたのです。
（とはいえなんだか勢いが激しいような……？）
「あはは……さわり心地だけで評価されるとなんだか複雑だけどね……」
　なんてごまかしつつ少し危ない気配と、もう少し自分の欲望を満たしていたい欲がせめぎ合っています。
　志桜里は、寒さを少しでも和らげようとお互いの長い髪も体へ絡ませて抱き合います。
　最近ようやく育ってきて膨らみかかった胸を平らな秘月のそれに押し付けながら、擦るようにボディタッチを重ねて……
（あ……以前の志桜里君の筋肉比率多めなのも好きだったけど、もう少し脂肪分もあっていいと思ってたら……これは大歓迎）
　秘月が密かにそんなことを思っていると。
（あぁ、何て幸せ……いっそ口まで合わせてみようかしら）
　志桜里は人目から逃げて抱き合ったまま秘月を壁へ寄せ。
　そのまま圧し掛かるように唇を奪って……。
（え？！）
　不意打ちにキスされて驚きのあまり、秘月は腰が抜けてされるがまま。
　すっかり元気になった志桜里は秘月の様子に気づくと、いきなり秘月を抱え上げてお姫様抱っこしました。
(この温もりが消えるのは惜しいものね……）
　武術の心得があり見かけによらず力のある志桜里には、これくらい造作もないことでした。
「体育祭のお返し、今度は私が抱いていく番ってことでどう？」
「……お返しというには手荒すぎるね……」
　秘月のほうは周囲の目が気になりつつも、志桜里の力強い腕に身を任せ、苦し紛れにそう返すのが精いっぱいでした。

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