洞窟迷子救出作戦！｜リアクション

洞窟迷子救出作戦！

　今が迷子を保護できるかどうかの瀬戸際だという事は、アカリにも分かっていた。しかし、胸のドキドキは抑えきれない。

（ほ、本当に狐の耳と尻尾が生えてマース！　cuteデースね！）

　事前に高久から聞いていた通りの獣人を目にして、アカリはときめいていた――のだが。
「二人とも、龍目君の説得が終わったら、食べ物を出して、優しく話しかけてくれないか？」
　高久に声をかけられて、蜜柑を手に深呼吸だ。
「俺、星幽塔に行ったことがあるんだ。第１１階層の氷結洞窟で捕らわれた子を助けた時とかさ。だから、もう大丈夫だ」
「もしかして、父ちゃんと母ちゃんが言ってた『ネコジマの奴ら』ってお兄さんのこと？　星幽塔のピンチを助けてくれたっていう」
「そう、その通り！　俺は龍目豪っていうんだ。君の名前を聞いてもいいか？」
「ティム……ティム・グロッタ」
　満面の笑みを浮かべる豪に、男の子――ティムはゆっくり岩陰から姿を現した。厚手の服は冬物のようだったが、肌が露出している箇所にはいくつか擦り傷がある。
「oh,ティム、さっきはあなたを驚かせてごめんなサーイ。私はアカリデース。怪我の手当をさせてもらえませんか？」
「私はマリエッタ。ティム君はお腹空いてない？　これ、チョコレートっていうの。甘くて美味しいよ」
　板チョコをかじって見せるマリエッタの横で、アカリも「蜜柑もありマース」と披露。
　最終的には高久が体にロープを結び、ティムを背負って湖に突き出た鍾乳石を伝い、救出した。
「はい、チョコレートよ、どうぞ」
「腹減ってるんだろ？　少しずつ食べろよ」
「……うわー、あまーい！」
　マリエッタからチョコレートを受け取り、豪に促されて一口かじったティムは顔をほころばせた。
「失礼しマース。傷を見せて下サーイ」
　アカリはきれいな水でティムの傷を洗い、除菌ティッシュで水分を拭ってから消毒をして、ばんそうこうを貼って撫でた。
「痛かったでしょう？　よく頑張りマーシタ」
「あれ？　もうあんまり痛くない気がする」
「おうちに帰ったら、お医者さんに見せて下サーイね」
　アカリのろっこん『元気になぁれ』は傷を治すわけではないが、痛み止めにはぴったりなのだ。
　水とチョコレート、蜜柑を食べたティムは、みるみるうちに元気になり、２０分も経った頃にはアカリと一緒にはしゃいでその辺を走り回れるまでになった。
「よし、じゃあそろそろ帰るか。ティムは俺の背に乗るといい。リーダー、先導をお願いしますよ」
「や、やめて下さい志波さん。恥ずかしいですよ」
　汗を拭いた豪はヘッドライトの位置を調整して立ち上がる。その後にマリエッタ、アカリ、ティムをおんぶした高久の順番で続く。
　ティムは夜目が利くようで、懐中電灯の光の中でも地面や天井の凸凹をいち早く教えてくれた。そのお陰で、一行は行きよりも遙かに安全に素早く洞窟を脱出できたのだ。
「わぁ、すごい星！　でも、どうやって星幽塔に帰ったらいいんだろう」
　満天の星空を見たティムは感嘆の声を上げたが、すぐにしょんぼりと下を向いてしまった。
「なぁに、大丈夫。星幽塔への扉ってやつは、必要な時に開くものさ。それよりも、皆体が冷えているだろう。ラーメンなら奢るが……どうだ？」
　高久以外の三人はこくりと頷き、「熱くて美味しいわよ」とマリエッタに説明を受けたティムも、きらきらと目を輝かせた。

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