寝子島と星幽塔、つながる世界｜リアクション

寝子島と星幽塔、つながる世界

●パティの小さな大冒険
【寝子島】
　パティ・ポップは意気込んでいた。
「なんだか見たことない世界に来たでちゅ！　これは大冒険が始まる予感でちゅ！」
　全長30cmほどのドブネズミの姿を持つパティ・ポップの姿は、そこかしこを闊歩するケモノ耳の『ほしびと』達に比べればあまり目立たなかった。
　ゆえに、彼女は悠々自適に、様々な場所を冒険することができた。
「凄いでちゅ！　巨大な鉄のかごがぐるぐるまわってるでちゅ！」
　寝子島名物の大観覧車に圧倒されてみたり、
「不思議でちゅ！　板の中で小人が喋ってるでちゅ！」
　薄型テレビの映像に我が目を疑ってみたり、
「あ、あちしは食べてもおいしくないでちゅううううううううううううう！！！」
　うっかり目が合った野良猫に小一時間追いかけまわされたりしながらも、わりと気楽に冒険を楽しんでいた。
　だが、そんなパティが周囲の空気の変化に気づいたのは、彼女が旧市街に迷い込みはじめたあたりのことである。
（……ちゅちゅ？　なんだかさっきから妙に背筋が冷たいでちゅ……。というか、猫多過ぎじゃないでちゅか？）
　さすがに、ここはマズいと引き返そうとしたときだった。
「あ、こ、こら、そこの猫、返しなさいですの～～～！」
　どこからともなく悲鳴じみた声が聞こえ、パティは「ちゅ？」と声のした方を振り向いた。
　　＊＊＊
　悲鳴の主は、さきほどまで歌ってみていた、アイオ・キャンドライトであった。
　アイオは、塔の外側にいる者からは特異に見える姿と自慢の歌声を駆使して、順調に視聴者数とコメント数を伸ばし続けていたのだが、そこでアクシデントが起きた。
　旧市街でひなたぼっこをしながら眠っていた島の猫がいたずら心を起こして、アイオの機材をくわえて走り去ってしまったのである。
「こらー！　おさかな……じゃなくて機材をくわえたドラネコ待ちなさいですのー！」
　なぜかそんな妙なフレーズがアイオの口を突いて出たのも、神魂の仕業に相違ない。
　とにかくドラネコを追いかけるアイオであったが、同じくよそ者であるネコ型獣人であるならいざ知らず、知の利のあるドラネコを相手に入り組んだ旧市街を猫の姿で追い回すのは得策ではない。
　と、そこに現れたのが、さきほどアイオの声を聞きつけたパティだった。
「お困りのようでちゅね。なんなら、あちしがあの猫の注意をひきつけるでちゅよ？」
「あら、いいんですの？　では、お願いしますわ。あの機材、ああ見えて、揃えるのが大変なんですの」
　アイオは、パティの厚意に感謝し、協力を依頼した。
「まかせるでちゅ！」
　さっそくパティは全力疾走で、機材をくわえたドラネコの前に躍り出た。
「ネコさんこちら、ちゅーと鳴く方へ、でちゅよ～♪」
　尻尾を振り振りパティが歌えば、ドラネコはまさしくねこまっしぐらとばかりに機材をぽいっと捨てて、パティに向かって駆け出します。
「……や、やりましたわ！」
　アイオはすぐさま機材を拾い、それからハタと気づいたようにパティの方を見やる。
「……あれ、でも、このあといったいどうやって逃げるんです――」
「そ・こ・ま・で・考・え・て・な・か・っ・たでちゅーーーーーーーー！！！」
　パティはハッと我に返ったように叫びながら、ドラネコを引き連れたままどこかへ走り去ってしまった。
「……だ、だいじょうぶなんですの？」
　ぽつん、と一人残されたアイオの問いはパティの耳に届くことはなかった。