寝子島と星幽塔、つながる世界｜リアクション

寝子島と星幽塔、つながる世界

●雷で動く、鋼の車
【星幽塔】
　基本、事件慣れしている寝子島よりも、むしろ『塔』の方が自体は深刻であったかもしれない。
「おいおい！　なんだ、あの鉄の箱は！」
「プップップップ五月蠅い上に、当たると痛いぞゴルァ！！」
　サジタリオ城下町では、通りを迷走する、島から迷い込んだ自動車に住人達のヘイトが爆発しそうになっていた。
「……た、大変！　なんとかしなくちゃだよ！」
　コンノ・グラスハーベルは、そんな未曾有の状況のために立ち上がった『ほしびと』の一人であった。
　その日、コンノは城下町の市場に買い出しに来ていたので幸い使えそうな道具が手持ちにあった。
（寝子島の人達は、異世界から来たわたしにとても良くしてくれました。だから、塔の皆に寝子島の人達に対する悪い感情は持ってほしくないです！）
　その一心で、コンノは城下町の石畳を蹴って駆け出した。
　幸い、コンノは寝子島でのバイト先で、自動車に対する少しばかりの知識を得ていた。
「確か、寝子島のバイト先で、お客さんが「バッテリー」がなんたらとか言ってたよね……」
　頭の中を整理するために、声に出して知識をまとめる。
「他のお客さんも店の側で車が停まってて。電圧がなんたら、それで車が動くとか……電圧、雷系と似たようなものかな。星の力に雷があればよかったんだけど……」
　残念ながら、雷を操るドンピシャの星の力は存在しない。
　だが、雷で動いていることがわかれば、雷属性の道具を使うことで代用は可能だ。
（投てきは結構上手いよ！）
　暴走し、外装が剥がれて、内部構造がむき出しになった自動車に雷を帯びた道具を投げる。
「……やった！止まりました！」
　作戦は成功した。
　だが、いかんせん、塔に迷い込んだ車は数が多い。
（わたし一人の力ではどうにもならない。誰か力を貸してくれる人は……）
　そう思って、コンノがあたりを見渡したとき、寝子島からやってきたと思わしき二人の子供が姿を見せた。
「ゆ、ゆーえんちが大変なことになってるよ……！」
「落ち着きなって。でも、これ、ちょっとヤバいかも……」
　おどおどする少年と、対照的に落ち着いた少女。
「あ、あなた達、寝子島の子ですよね？　誰か、他に大人の人は――」
　コンノがそう声をかけたとき、頭上からもこもこ羊に乗った瑠樹がやってきた。
「二宮君、桃井さん、ちょっと大変なことになってるみたいだから、そこに隠れていてくれるかねぇ。オレが帰ってくるまで、ここから離れちゃ駄目だよぉ？」
　風太とかんなを安全な場所に移動させつつ、ふと瑠樹はコンノの存在に気づき、
「ん？　あんたは……？」
　と、訊ねてきた。
　そこで、コンノは事情を説明し、瑠樹に助力を乞うことにした。
「あなたも星の力が使えるんですね。わたし、寝子島の人達のこと、塔の皆に悪く思って欲しくないんです。力を貸してくれませんか？」
　それに、瑠樹はにっこりと微笑み、
「もちろんだよお」
　と二つ返事で了承してくれた。
　そこからは、話が早かった。
　瑠樹は空を飛びつつ、コンノからもらった風精霊のアイテムを使って、車の進行方向にいる人々に注意を呼び掛けながら、ろっこんで怒りと混乱のさなかにいる人々を和ませた。
　いったん和んでしまえば、事情を説明するのはたやすい。
　寝子島でバイトの接客経験もあり、穏やかで相手を刺激しない口調のコンノが話をすることで、だんだんと街を支配する混乱は収まっていった。
「やれやれ。これでどうにかなったみたいだねぇ」
「はい。本当によかったです」
　コンノと瑠樹はひとまずホッとしつつ、互いの健闘を称え合い――
「……あれ？　そういえば、さっきの子達は――」
「あれぇ？　ここから離れちゃ駄目って言ったんだけどなぁ」
　そこで、子供達の姿が消えたことに気づいた。
　どうやら、塔の騒動はあと少し続くようだ。