地下帝国、崩落！？｜リアクション

地下帝国、崩落！？

●ハイホ～ハイホ～スパッツは至高～

　そのころ、梨香はじめ１０人が閉じ込められている穴の前では、ラッセルと解理、さらに後から加わった地下帝国軍師・浮舟久雨が、穴を掘り続けていた。軍師殿はさすが、応急キットと水が入った鞄、スコップ、つるはし、ライトと装備に抜かりはない。
「ハイホ～ハイホ～スパッツは至高～♪」
　歌声は、穴の外側からだけでなく、内側からも聞こえてくる。
「なんなんだ、この恥ずかしい歌は……」
　久雨はちょっと前のラッセルと同じようなことを思ったが、そのラッセルはいまや楽しげに歌を歌っており、もしかしたら「スパッツは至高である」と信じているかもしれないような有様である。いまさら文句を言っても仕方がない。とにかく一心不乱に掘る。

　やがて、崩落箇所に、希望の穴が開いた！
「やった！　大丈夫か？」
　穴を覗き込んだラッセルはすぐさま顔をしかめた。「……うっ、ごま油臭くさー」
　脇道の中は、蛇那伊の発するごま油の臭いが充満していた。
「あんまり大丈夫じゃないから、早く助けて～」
　誰かのぐったりした声が聞こえる。
　
　そこに、ちょうどよく、小部屋を開通させてきた入り口開通組の一行が現れた。いくつかの見知った顔にほっとして、これで百人力とばかりに久雨はみんなを鼓舞する。
「あと少しの辛抱だ。みんな、がんばろう！」
　士、毬藻仔、いいな、真魚、修という大きな加勢と、小さいながらも空いた空気穴のおかげで、穴掘り作業はいままでとは桁違いに加速した。

　そして――。

＜脇道との出入口、開通！＞

「まず、全員、脇道から外に出るんだ。歩けない者がいたら、無事な者が支えてやってくれ」
　久雨が軍師らしくてきぱきと指示を与えた。
「怪我している人がいたら言って！　サッカー部で使っている救急箱持ってきたから」
　毬藻仔がそう言ったので、ならば、と久雨は急遽、毬藻仔を救護班長に命じる。
　中にいた人がぞくぞくと外に出てきた。
　穴から出てきた人々にとって、一番ありがたかったのは、久雨が用意していた水だった。ほんのひとくちずつだったが、この水に感激して、美崎岬は久雨を抱きしめる。
「おいしい空気、おいしい水！　こんな素敵なことってないわねえ～！！　ありがと久雨ちゃん！」
　倒れた実々は、男子たちの手によってそっと運び出され広間に寝かされた。とくに具合が悪そうなフィリアも、ももに付き添われて広間へ。まずは全員そこで休息を取ろうという流れになっていたのだ。

　穴の奥の方にいた梨香と桜庭円は、最後までそこに残っていた。
　人数の確認をしていたラッセルがそれに気づき、声を掛ける。
「おい！　なにしてんだ！　また崩落したら危険だろ、早く出ろよ」
　梨香と円は「ええー」「でもお宝がー」と不満げに声を上げるが、ラッセルはぴしゃりとそれを封じる。
「なにがお宝だよ！　人命一番、探究心二番！　命あっての物種だろーが」
　梨香のダウジングロッドは、ナニカが近いことを懸命に報せてくれていた。だからこそ梨香は名残惜しそうに穴の奥を見たが、さすがに疲れもあり、またラッセルがあまりに真剣なので、一旦引く決意をした。
「ここは彼の言うとおりにするほうがよさそうね」
　ところが、そのときだった。
「あっ」
　円がちいさな声を上げて転んだ。
「大丈夫？」
　梨香が助け起こそうと手を差し出す。
「あー、膝、擦りむいたかも……ん？」
　自分は何に躓いたのかと、無意識に足元に目をやった円は、突然瞳を輝かせた。

　あるいは円がそれに気づいたのは、彼女のろっこん＜ブレイブハート＞が齎した運だったのかもしれない。円に導かれ、梨香が触れたそこには、明らかに人工のものと思しき、木の蓋のようなものがわずかに覗いていた。
　――扉、かもしれない。ふたりはそう直感した。