昏い穴の中に、ふたりの女の子たちのため息が響く。
「ここが地下帝国……温泉が湧いたというのはここなのね」
物珍しそうに辺りを見回す白衣姿の少女は猫目で、灰色の髪を高くお団子に結っている。
「私、秘湯に興味があるの。
坂内 梨香、3年よ」
梨香が自己紹介をすると、もう一人の女の子も小さく会釈し「3年のフィリア」と名乗る。
「私たち、地下に湧いたっていう温泉を、どうしても一目見てみたくて」
そんなふたりを招き入れたのは
花風 もも。見かけないお客さんにおっとりと微笑む。
「どうぞ。きっと大丈夫だと思う。気のいい人たちばっかりだから……」
「良かった。もし叶うなら、地下帝国さんを一通り見学もしたいのだけれど。……これ、見たのよ」
そういうと梨香は、内容の信憑性が低いことで有名な寝子島タブロイド、通称・寝子タブのページを開き、小さな記事を指差した。ももは感激の声をあげた。
「……わ。地下帝国が寝子タブに? ……貸してもらってもいい? みんなにも見せたいな」
「どうぞ」
梨香から寝子タブを借りたももは嬉しそうに小首を傾げ、
「あ、見学は好きにしてて……。何かあったら呼んでね」
と言うと仲間の元へ駆けて行ってしまった。
猫鳴館地下帝国の噂をご存じだろうか。
寝子島高校の部室棟のあたりから裏山の小道へ入り、藪を超えたところにある猫鳴館。
その猫鳴館の地下に存在しているといわれる謎の地下空間……らしい。
そこでは日々、謎の悪巧みやら、謎の穴掘りやら、謎の儀式やらが執り行われているとかいないとか。
この猫鳴館に入る学生の中には常に一定割合でおかしなことを考える者が現れるが、
今年も例外ではないらしい。
穴を掘る。このロマンを追い求める男が現れたのだ。
それはある新入生だった。そして寮の地下を掘り進めていったところ、
もともとあった戦時中の防空壕に行きあたったのだという。
「ある新入生ってのはあっしのことだよい」
皇帝ホネソギウスこと
骨削 瓢はももが広げた寝子タブを読むと、けらけらと笑った。
瓢は、入学前の入寮時からこそこそと――時には大胆に、猫鳴館の地下を掘り進めてきたひとりだった。
「まさか、ここのことが記事になるなんてな……」
いつもの熊皮を被った相棒の
邪衣 士が、顎に手をあてふむん、と唸る。
記事はこんなふうに締めくくられている。
この地下帝国に温泉が湧いたという噂もあるが本当だろうか――
少し前に、地下帝国に念願の温泉が湧いた。……といっても、大規模な掘削をしたわけではない。仲間たちが一丸となって数メートルほど掘ったところ、たまたま岩の割れ目から湯が湧いたのだ。湯量は一時こそドバっと出た気もしたのだが、今は岩の割れ目から沁みだしている程度。それでもロマン溢れる地下帝国民たちは大いに喜び夢を膨らませている。
瓢と士が辺りを見回せば。
狭苦しい行き止まりの穴ぐらの中で。
安全ヘルメットにツルハシ姿の帝国臣民――もとい仲間たちが、泥にまみれた顔を擦って、ニカッと白い歯を輝かせる。
そんな彼らを横目に、梨香は胸の内で唱える。
――九夜山の南、赤き湯が湧くところに<紅梟の卵>がある。
<紅梟の卵>を湯に浸せば、我々が求める島への道を示す鳥・紅梟(べにふくろう)が生まれる――
伝説の宝の島を探す組織<
シーノ>に伝わる伝承のひとつ。
彼女たちは、その組織の一員なのだ。
そして、ももこそ気づかなかったが、彼女がしっかり腕を組んでいる女の子は、フィリア・ケーレス――4月に星ヶ丘寮で
PK事件を起こした人物であった。
ふたりの目的はふたつ。
地中に埋まっているであろう宝<紅梟の卵>を、地下帝国民より早く手に入れること。
その宝をこの地下帝国に湧いたという温泉に浸し、伝承が真実かどうか確かめること。
それが彼女たち<紅梟班>に与えられた仕事だった。
フィリアが梨香に囁く。
「梨香の分析通り、伝説の湯はここから湧きましたね」
「結論を急ぐのはよしましょ。卵を見つけて、温泉も確かめなければ。でももしすべてがうまく行けば……猫鳴館を取り壊して掘削する必要はないかもね……」
その頃。湯の傍にいた者たちの何人かは、岩から染み出る湯が、赤みを帯びているのに気づく。
直後。
地下帝国が、揺れた。
そして。
「皇帝! 大変だ! あちこち崩落して閉じ込められたぞ!」
地下帝国民が。偶然居合わせた者たちが。そして、梨香とフィリアも。
なんということだろう、地下帝国に閉じ込められてしまったのだ!
――6月上旬。重い曇り空の放課後のことである。
こんにちは。
ゲームマスターを務めさせていただきます笈地 行(おいち あん)です。
大変です! 猫鳴館の地下に存在するという地下帝国のあちこちが崩落し、分断されてしまいました!
このシナリオでは、崩れた部分を掘ったり、救出したりしながら、地下帝国の現状を確認してゆきます。
地下帝国のみなさん、何卒よろしくお願いいたします。
そして……地下帝国を見に来た他のひとたちや、怪しいふたりも一緒に巻き込まれた様子です。
協力しあったり反目しあったりしながら、なんとか地下帝国を復旧・脱出してください。
◆地下帝国の現状
謎多き地下帝国。
いくらか夢に水を差すかたちになるかもしれず恐縮なのですが、
残念ながら、コミュニティでの発展すべてを採用することはできません。
これまでのリアクションなどを元に、運営部とも相談して現状をこのように定めさせていただきます。
<現状>
・猫鳴館の地下にある。
・元防空壕と繋がっており、補強された土や剥き出しの岩でできている。
・ランプや送風機が設置してあり、一晩いても大丈夫。
・いくつかの脇道と小部屋ができている。
◆アクションでできること
・自分が閉じ込められている場所からの脱出・救出
参加キャラクターは、下記のA~Fのどこかを現在地として選択し、
アクションに記載してください。
崩落は頑張って掘り進めば簡単に修繕できるものとしますので、掘ってください。
突然の崩落だったので、普段の穴掘り装備以上のもの(例:高価な掘削機械など)は準備できません。
ろっこんはもちろん使用可です!
※A、Bは辛うじて携帯も使えますが、
C~Fは電波状態が悪く、携帯電話やねこったーが使えません。
同じ場所に閉じ込められた仲間同士で力を合わせてください。
携帯以外での連絡手段を思いつけば連絡は可能です。
A:入口付近~猫鳴館
地下帝国の出入り口にははしごがあり、猫鳴館の大部屋から繋がっています。
地下帝国内部との間は崩れて、出入りできないようになってしまいました。
A地点にいる場合は、閉じ込められていません。
外に出るのは自由ですが、地下帝国内部には入れません。
異変を知って、外部から駆け付けたなど、地下帝国以外にいる場合はすべて、
このAを選択してください。
猫鳴館にいると、地下で何かが崩れたようだ、とわかります。
幸いなことに、猫鳴館の建物に被害はないようです。
B:広い空間と迷路状の地下通路(元防空壕)
主に戦時中に作られた防空壕部分です。
地下帝国民全員が集まれる広い空間と、そこから伸びる迷路状の地下通路があります。
迷路部分は入り組んでいて図に描けませんが、おおよそ地図の斜線の範囲内のようです。
ここは地盤もつくりも頑丈で、崩れにくいです。
一応立って歩けます。(背の高い人は屈まないといけないかもしれません)
入口、Eの脇道、小部屋、温泉それぞれとの道を断たれてしまいました。
換気は出来ているので呼吸の心配はありません。
C・D:小部屋
脇道のうち、小部屋ほどの大きさに整えた部分。空気穴があり呼吸は大丈夫!
E:脇道
地下帝国にはいくつか脇道があります。
古いものもあり、地下帝国のみんなで新たに掘り進めたものもあり。
いずれも細かったり小さかったり行き止まりだったりしています。
その中のひとつ、Eの脇道に梨香&フィリアがいます。
掘りかけのここは徐々に空気が無くなってくるので大変危険です! 脱出 or 救出を急いで!
F:温泉の湧いた岩場
数メートル掘ったところ、偶然湯道に突き当たったのか、はたまた神魂の影響か、
岩の割れ目からお湯が沁みだしています。
崩れ落ちた部分に空気の通り道があり、呼吸は大丈夫ですが、
湯気でだんだん暑くなってきます。
◆地下帝国のみなさんへ
※地下帝国内での地位、特別なあだ名などありましたらアクションにお書き添えください。
※コミュニティの中でのゲーム要素や空想を現実の設定にしたい場合は、
そのための行動や手段を(部屋を作るなら作り方や持ち込むものなどを)
具体的にアクションに書いてください。
この状況でできる範囲で、採用いたします。
◆地下帝国以外のみなさんへ
・崩落の音を聞いてびっくりしてのぞいてみた。
・よくわからないが偶然迷い込んでしまった。
・寝子タブを見てたまたま地下帝国の見学に来ていた。
・実は、俺もシーノだ!
(今回からシーノだということにしてもらっても大丈夫!
梨香やフィリアと一緒にいた、出てくるのを上で待っていた、など)
などなどご自由にどうぞ!
参照してほしいリアクションなどございましたら、ページ数もお書き添えいただけると助かります。
◆登場NPC
怪しいふたりをご紹介します。
・坂内 梨香(女)
お団子髪に白衣姿の3年生。
夜の女帝号での騒動に関わった「伝説の宝の島」を探している組織
シーノの一員で、おもに現場の分析を担当する。
弱点:男子。(男子を前にすると真っ赤になって、どもってしまう)
・フィリア・ケーレス(女)
芸術科の3年生で半裸の絵を好んで描く人物。
4月に星ヶ丘寮でPK事件を起こし、1週間の停学処分を受けた。
星ヶ丘寮からは退寮している。事件後、学校は自主休校していた。
弱点:パンツ。(パンツを目にすると強奪したくなってしまう?)
※彼女たちがシーノであること、紅梟の伝説、および彼女たちの真意は、
シーノのメンバー以外のキャラクターは知り得ないものとします。
それらの情報を得たい場合は、彼女たちに協力するか、
情報を引き出すためのアクションをかけてください。
崩落にもめげずに、彼女たちは自分たちの目的を果たそうとします。
敵対しても構いませんし、(吊り橋効果で?)友情を築いても構いません。
それでは、ご参加お待ちしております!