地下帝国、崩落！？｜リアクション

地下帝国、崩落！？

●届いたＳ・Ｏ・Ｓ

　実々のＳ・Ｏ・Ｓは、そのとき雑談広間のあたりに偶然居合わせた、桜井ラッセルと伊賀解理の耳に届いた。ラッセルは温泉の噂を聞き、解理は寝子タブの記事と皇帝骨削氏の誘いでこの地下帝国を訪れていたのだが、他のみんなと同じように運悪く閉じ込められてしまっていたのだ。

「いま、Ｓ・Ｏ・Ｓって聞こえなかったか？」
　ラッセルが耳を澄ませば、解理も頷く。
「うむ。僕も聞こえた。じつはさっきから、坂内先輩の姿が見えぬのが気になっていたんだ。あの、的にちょうど使えそうな髪型に加えてなにより白衣だから目立つはずだが……まさか坂内先輩たちの声か？」
「かもしれない。俺、むこうにあった脇道に人が入っていったのを見た気がしてさ。もしかしてあの中に閉じ込められてるのかもしれねー！」
　慌てて掛けだそうとするラッセルを解理が引き留める。
「待ちたまえ。下手に動けば僕らが遭難する可能性もある。ここは詳しい者に任せるのが得策だ」
「そんなこと言ってる場合じゃねーだろ！　いまここには俺たちの他に誰もいないんだぜ！　俺たちがやらなくてどうするよ！？」
　ラッセルの言葉が、解理の心を動かしたのか。……いや、あるいは、最初から決意していたのか。
「……ああ、そうだ――危険かもしれない。二次災害に巻き込まれるかもしれない。まず自分の命を助けるべきかもしれない。……だが断る！　この伊賀解理。同胞のためなら多少の危険にも飛び込む覚悟がある！」
「ど、同胞！？」
　日頃から白衣に眼鏡にスパッツな解理は、ささやかな胸を張って答えた。
「白衣的な意味で、だ！」

　ラッセルと解理は、連れ立って奥へと進んだ。
　辺りは暗かったが、懐中電灯で照らすとすぐに崩れた箇所を見つけることができた。
　ラッセルが呼びかける。
「聞こえるか！？　誰かいるのか！？　助けに来たぞ！」
　中からくぐもった声がする。
『その声はもしかして桜井！？』
「天野か！」
　偶然にも友人が中にいることが分かり、ラッセルは気が焦る。
「中の様子は！？　大丈夫なのか！？」
『中に、１０人いるんだ。応援団の深民って女の子がひとり倒れた。フィリア先輩も具合が悪くて……他は大丈夫だけど、ちょっと息苦しくなりはじめてる。あまり時間がないかも……』
「会話できるってことは、崩れた土砂はもうそんなに厚くないはずだ！　今から掘り進めるからそっちからも頼む！　俺が音を出すから、そのあたりを集中して掘ってくれ。小さくていい、穴を開通させるんだ！」

　ラッセルは、自分の赤いリュックサックから折りたたみスコップを取り出すとがむしゃらに掘り出した。
　解理も、雑談広間から拝借してきたゲスト用ツルハシで、非力ながらもせっせと掘る。
　ふたりは少し上方の一点を集中的に掘る。壁にできた窪みはみるみる深くなってゆく。
　同じ場所を、内側からも掘ってくれているはずだ。
「掘ろう！　そして、歌おう！」
　解理が歌う。
「ハイホ～ハイホ～スパッツは至高～これ一枚でぱんつは安心だ～ハイホ～♪」
　バカらしい歌だったが、その陽気な歌声は、穴の内外の人々にすこし元気を取り戻させた。
　ラッセルははじめ、恥ずかしくてそんな歌は歌えないと思った。
　しかし、白衣に眼鏡にスパッツな解理にどつかれ、しぶしぶ歌いだす。
　歌ってみれば、歌わないより、ずっと作業がはかどる気がした。
「ハイホ～……ハイホ～……スパッツは至高～♪」