追試危機一髪！　～黒い陰謀とヤバイ奴～｜リアクション

追試危機一髪！　～黒い陰謀とヤバイ奴～

　物理以外の全ての教科の追試を受けている、志田朝陽は相変わらず、がくぶるしていた。
　フジコちゃんにちょっかいを出されている、他の生徒を見るたびにトラウマを揺り起こされて、テストが正直手についていなかった。
　ここまで寮の食堂で勉強法や暗記、音読など朝陽なりに、頑張ってテスト対策をしてきたというのに。
（くそ、早くも留年が見えてきた……！？　覚えたものが、頭から抜けちまった！
　素直に幼なじみに頼ったほうがよかったか……？　いや、それこそ俺の人生終わっちまう！！）

　誰かの、悶え苦しむ声が耳に響く。
　フジコちゃんが視界の中に入るだけで、ゾワゾワしてたまらない。
　脂汗が噴き出して、体が冷えてくる。
（耐えろ！　耐えるんだオレ！
　テストに集中だ！　あー！　あー！　何も聞こえねー！）

　しかし悲しいかな生物の本能で、気にしないと念じる程、フジコちゃんの動きが気になってしまう。
　特に咄嗟に動かれた日には、喉から変な叫び声がせりあがってくる。
（もしも、フジコ先生の犬にされたら……ヒィィッ！　駄目だ！　考えちゃいけねぇ！
　俺は集中できるやつだ、サッカーでも集中出来てただろ！？　俺の貞操が掛かってんだ！）
　そんな朝陽に、フジコちゃんが目をつけないという事があるだろうか。
　いや、ない（キッパリ）。

「ウギャァァ！　息吹きかけないでくださいっす！
　やめてください勘弁して下さい許してください！　言われた事なんでもしますから！」
　集中が大いに乱されて、テストが終了しない朝陽の絶叫は最後まで学校に響き渡り、それを聞いた者は朝陽の不幸に胸を痛めたという。

「さあて、これで最後ね。皆、お疲れ様。
　これに懲りたら、もう二度と赤点なんて取るんじゃないわよ。もっとも、先生はいつでも構わないけれど」
　高笑いするフジコちゃんの、ゴツイ背中が遠ざかる。

「ふあー、やーっと終わったよー」
　大きく伸びをして、ののこがようやく最後の答案を提出した。
「お疲れ様、よく頑張ったな」
「えへへ。修君も遅くまで付き合ってくれて、ありがとう！」
　八神修はののことルームメイトの七夜あおいが待っていないか探したが、流石にこれ程時間がかかっては、あおいがいくら大らかでも待ちわびる姿はなかった。
「あおいちゃんも誘って、夕飯食べに行くんだよね？」
　何でもないことのように、ののこが笑う。
「そうだな……、その方が野々も楽しいよな……？」
「うん！　大勢で食べた方が、絶対美味しいもん！　皆も行こうよ！」
「ゴッハン、ゴハン～♪」
　環は歌いながら、くるくる回っている。
「レディの誘いなら、断るわけにはいかないね」
「たまには、庶民の店でディナーというのもいいだろう」
「俺も！　もうハラペコで動けそうもねぇし。ホラ、しっかりしろ夕飯食いに行こうぜ」
「真央ちゃん、こっち持つのだ」
　信彦と凛は、行く気満々。
　轟は真央と協力して、最後に開放された朝陽を抱え、会場を後にした。
　追試科目が多く、居残っていたメンバーや、自主的に（或いは事故で）居残りしていたメンバーも続く。

「七夜が来たら、野々は頑張ったぞって教えてやろう」
「やったー！　修君に誉められちゃった」

　はしゃぐののこを横目に、何となく天野は思う。
　これが彼女の望む、“フツウ”なのかな、と。

このページにイラストを設定する