借り猫日和の運動会｜リアクション

借り猫日和の運動会

○かけっこ、玉いれ、猫ダンス♪

「今年も来たよぉ、運動会！　沢山走って頑張るよぉー！」
　４年生の曖浜瑠樹は、運動会が大好きだ。
　校庭に張り巡らされた万国旗を見るとワクワクしてくる。
「位置について。用意！」
　パーン！
　ピストルの音と共にダッシュし、そのまま走り抜ける。
「やったあ！」
　かけっこは今年も見事に１位だった。

　６年生の佐藤瀬莉にとっては小学校最後の運動会。
「かりねこにも当選できたし楽しむよ！」
　去年は抽選に外れて出られなかった。最後の運動会に出られるのは嬉しい。
（人数が決まってるのでどうしてもくじ運に左右されるんだよね）
　

　森篠琳子は、母と共に３年生の妹の奏子の応援にやってきた。
「来年の今ごろは忙しいだろうから、運動会に顔を出せるかどうかわからないよね」
　つい先日、寝子島信用金庫への就職が決まった琳子である。
「土日はお休みなんじゃないの？　……忙しくないといいわね」
　母子家庭でなにかと忙しいので、母はなるべく琳子に家にいてほしいのだろう。
　今朝のお弁当も母と自分で作ったものだ。
　早い時間から場所とりはできなかったので、いい場所はかなり埋まっている。
「あ、あそこ座れそう」
　なんとか空いているスペースにレジャーシートを敷いて荷物を置く。
　父を亡くしてすぐの運動会は、他の家の親子連れを見ているのがつらくてすみっこのほうにいたものだった。
　今も寂しいけれど、慣れたのか妹が明るいのが救いだ。
「プログラムは……あ、次猫ダンスよ」
　妹が１年生のころははらはらしながら見ていたものだが、３回目となるとかなり余裕が出てきた。
「うん、楽しそうに踊ってるね」
　父がそうしていたように、琳子はスマホを構え写真を撮る。

　猫耳と猫しっぽをつけた瑠樹は、音楽に合わせて猫っぽい振りつけで踊る。
　１年から４年まで一緒に踊るが、毎年振りつけは少しずつ難しくなるのだ。
「にゃあ！」
（猫さんになった気分で楽しいよぉ）　

「あ、人がいっぱい……今日もしかして運動会？」
「そういえば朝花火の音が聞こえたわね」
　仙藤蒼と仙藤紫は、姉妹で小学校の近くを通りかかった。
「懐かしい！　ちょっと見ていこうよ」
　蒼が校庭に入っていく。
「そうね」　
　紫も蒼も寝子小出身なので、紫は自分が卒業した後も妹の運動会を４回見に来ている。
「かけっこに玉入れ、猫ダンスにソーラン節……懐かしいな」　
　ちょうど猫ダンスをやっているのを見ながら、紫がしみじみと言う。
「覚えてる？　蒼ったら猫ダンスの時に振り付けを忘れて『マタタビで酔っぱらった猫』の物真似をしたのよね」
「ああ４年生の時！　なぜか忘れちゃったんだよね。練習の時は他の人の見れたのに、当日休んだ子がいて先頭になっちゃって……即興だったけどあれウけたよね？」
「びっくりしたわよほんとに」
　懐かしい思い出に二人は笑い合った。
「あ、玉入れ始まった！　ね、さっき買ったお昼ここで食べていかない？」
「そうねえ……」
　懐かしさもあって、二人は小学生たちの競技に見入ってしまった。
　

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