借り猫日和の運動会｜リアクション

借り猫日和の運動会

○借り猫競走！

　その頃、蒼と紫は実行委員に誘われていた。
「人気競技だし児童だと希望が殺到しちゃうんです。出ていただけませんか？」
　紫は蒼と顔を見合わせた。
「借り猫競走、好きだったんだよね。くじ運のよかった私は結構出られたかな」
　そう言う蒼の顔には、「参加しよ」と書いてあるようだった。
　普段ゲーム三昧な蒼だが、運動するのは嫌いじゃなかったりする。
（それにゲーマーをやるのも実は体力がいるから、適度に運動して体力を養っておくのも重要だったりするんだよね）
「出場する？」
　紫の問いに、蒼は即答した。
「うん！　お姉ちゃんはどうする？」
「そうね、久しぶりだし、出てみようかしら」
「よし！　頑張ろう！」

　
「というわけで、今年はトレードタイムという新ルールがあります。音楽が鳴ったら近くの選手とカードを交換してくださいね」
「はーい！」
　ルールの説明後、大人も混じった借り猫競走がスタートした。
「去年は黒猫だったねぇ。今回はどんなにゃんこかなぁ？」
　校庭を半周し、一番に借り猫バスケットにたどり着いた瑠樹が中のカードを確認する。
「……幸運の鍵しっぽだー！　鍵しっぽのにゃんこ、どこかねぇ？」
　瑠樹は走るのをやめ、歩きだした。
（走ると驚いちゃうかもだからねぇ。校内を歩き回ってにゃんこを探すよぉ）

　妹と同じ組で参加することになった琳子は、一緒に走ってゆく。
「でぶ猫！？」
　カードを読みあげた琳子の隣で妹も声をあげる。
「こっちは子猫だって。でぶ猫なら給食室の裏にいるよ。すっごいのが」
「助かったわ」
（でぶ猫、と言ってもそんなに大して太っていないわよね？）
　子供用の競技なんだから大人は楽勝なはず、と思いつつ給食室裏に向かう。
　グー、ゴオオ……
「何の音？」
　探すまでもなく怪しい音が聞こえてきた。その出所を辿ると、相当重そうな茶色い猫が目を閉じている。
「これ、イビキ……？　太りすぎじゃない？」
　持ち上げても起きない。逃げようとしないから捕まえるのは簡単だったけど、それを動かすとなるともう大変だ。
（とてもじゃないが、女の細腕で動かせそうにない……なんて、弱音を吐くわけにもいかないわね）
　その時、近くで、ミーミーと鳴き声がした。
「子猫？！」
「よく捨てられてるんだよね。これで私のお題もOKだよ」
　妹が白い子猫をバスケットに入れた。

「『鍵しっぽの猫』？　……いきなりレアカード！」
　軽快に走ってきた蒼はお題を読みあげた。
「そんな特殊な猫をいきなり見つけに行けと言われても……でもそっちの方が燃えるよね」
　続いてやってきた紫もバスケットからカードを拾い上げる。
「『八割れ猫』？　そんなの、どこにいるのかしら？」

　蒼はとりあえず観客席に向かい、目撃証言を集めた。
「鍵しっぽの猫を見かけませんでしたか？」
「見たことあるよ」　
　子供が声を上げ、食いつくように蒼が尋ねる。
「どこで？」
「プールの入口とか、砂場のあたりでも見た」
「ありがとう！」　
　お礼を言って走りだす。
　そのあたりを探していると、プールの塀にもたれて猫が三匹、しっぽを畳んで昼寝していた。
「ごめん、しっぽを見せて」
　だが下手に刺激すると、みんな逃げてしまうかもしれない。
（どの猫からいこうか？）
　手前から、ぶち猫、三毛猫、鯖猫。
「……よし、君に決めた」　
「ニャ？！」
　そっと引っ張った三毛猫の尻尾は、曲がっていた。
「やったあ！　あっ、逃げないで！」
　びっくりして逃げ出そうとする猫を慌ててつかまえた蒼は、頭をなでなでして落ち着かせる。
「ごめんね。ちょっとだけつきあって。バスケットに入っててくれればいいから」
「ニャー」　　
　

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