借り猫日和の運動会｜リアクション

借り猫日和の運動会

○トレードタイム！

（誰も走ってない。これなら一位かも？）
　快調に走り校庭に戻ってきた蒼の耳に、音楽が聞こえてきた。
「？」と思った次の瞬間、その意味を悟る。
「トレードタイム？！」　
　辺りを見回すと、バスケットをこちらへ走ってくる紫の姿があった。
　だが、その後を白猫が追いかけてくる。
「お姉ちゃん！？　ミラ？」
　よく見ればバスケットの中には眉間にしわを寄せたテオが寝そべっている。
「トレードね。はい」
『煮干しの約束を忘れるなよ』
　テオの声が聞こえてきて、蒼は苦笑した。
「わかった。走るわよ！」
　言うが早いか、ミラを引き離す勢いで走りだす。　
　
　でぶ猫のバスケットを抱えたり提げたりしながら、えっちらおっちら琳子は走る。
　子猫をバスケットに入れた妹はとっくに先に行ってしまったので、順位は気にしないつもりだったが。
　トレード・タイムの音楽を聞いて気が変わった。
「お姉ちゃん……」　
　途方に暮れた顔で妹がこちらを見る。近くに他の選手がいないのだ。
「さあ、交換よ」
　そう言ってバスケットを差し出すが、この重さは少しかわいそうだと思う。
「片手で支えてあげるから、頑張って」　
　左手に子猫のバスケットを提げ、右手ででぶ猫のバスケットを支えて琳子は走った。
　
「あっ、音楽……トレードタイムだー！」
　瑠樹はあたりを見回した。
　走ってくる瀬莉と目が合う。
（どんなにゃんこを見つけたのかなぁ？）
「フギャー！」
　瀬莉のバスケットの中の黒猫が毛を逆立てた。
「引っかかれないよう気をつけて」
　瀬莉が注意する。
「ごめんなぁ、だいじょうぶだからなぁ」
　だが瑠樹が優しく声をかけてバスケットを受け取ると、黒猫はおとなしくなった。
「大切に運んであげてなぁー！　オレも大切に運ぶよぉー！」
　瀬莉に声をかけ、黒猫のバスケットを抱っこすると瑠樹は駆け出した。
「ゴールまで頑張るよぉ！」　
「負けない！」
　瀬莉もその後を追う。
　
　蒼、瑠樹、瀬莉が三つ巴でゴールを目指す！
『おい、あまり揺らすな』
　テオが文句を言い、蒼はバスケットを抱え直した。
　ミラがまだついてくるので、ちょっと悪い気がする。

　ゴールテープを切ったのは……わずかの差で瀬莉だった。
　次に瑠樹、そして蒼。
　その後に紫が続き、それから琳子と妹の奏子が同時に走ってくる。
「手を放すわよ、しっかり持って」
　ゴール前１ｍほどで琳子はでぶ猫を支える手を放し、ゴールへ駆け込んだ。
　
　その後、何人かの子達がバスケットを抱えてゴールに入ってきた。
　やがて次の組が走りだす中、選手たちは猫たちにお礼を言って元の場所に帰ってもらった。

　
　そして６年生の見せ場である組体操が始まった。
「うまくできるといいね」
　出番を待つ瀬莉に、緊張している様子の友達が声をかけてきた。
「大丈夫、いっぱい練習したし。それにちょっと失敗しても誰も気にしないよ」
「そうだよね」
　昔と違って高いピラミッドはやらないけど、その分いろんな演技があるから覚えるのは大変だった。
　音楽が鳴りだし、本番が始まる。
　瀬莉の頭の中で時計が正確なリズムを刻みだす。
　綺麗に見えるよう、きちんと揃うように。
　精いっぱいの演技は、万雷の拍手を浴びた。

　最後の種目は色別のリレーだった。
「がんばれぇ！　あとはオレが走るよぉ！」
　瑠樹の前の走者が２位で入ってくる。
　瑠樹はバトンを受け取り、猛然と走りだした！
（猫さんを抱っこしてないから、余裕だよぉー）
　見事に瑠樹はトップの走者に追いつき、抜き去った！

　
　こうして寝子小の運動会は、皆の胸にやりきった思い出を残して幕を閉じた。
　

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