借り猫日和の運動会｜リアクション

借り猫日和の運動会

「八割れ猫……どこにいるのかしら」
　蒼と別れた紫は、校内を歩きまわっていた。
　ふと塀の上を見ると、灰色猫と白猫がいる。
「テオ？　それに……ミラ？」
　不機嫌そうなテオの顔を見れば、まさしくハチワレ模様である。
「よかった。テオ、お願いだからバスケットの中に入って」
『なんで俺がそんな面倒なこと……』
「後で煮干しか何かごちそうするから」
　テオの耳が、ぴくりと動いた。
「来てくれるの？　ありがとう」
『………』
　否定しないのを了承と取って、紫は手を伸ばしテオを胸に抱きかかえて塀から下ろす。
　すると、ミラも塀を降りてきた。
（そういえば『いいなずけ』って話を聞いたけれど、もしかして他の女の胸に抱かれているので心なしか嫉妬している……？）
　なんて変なことを考えつつ、紫はテオをバスケットに入れて走りだした。
　その後をミラが追いかけてきて、走りづらい。

「黒猫かあ」
　瀬莉はカードを手に考える。
（確か体育館裏に黒猫の一家がいるんだけど）
　人間が嫌いなのか結構気性が激しい。
（今年に入ってからでも何人か手を引っかかれたりしてるって聞いたし）
　瀬莉はひっかかれこそしなかったけど、「ふにゃー！」と威嚇されたことがある。
（さて、どう捕まえるかな。ここは食べ物で釣るのが一番よね）
　瀬莉は食べきれずに残したお弁当のおかずのことを思い出した。
　自分の席へ向かい、お弁当箱を持って体育館裏へ走る。
「ふにゃああああ！！」
　体育館裏では黒猫の一家がたむろしていたが、こちらの姿を認めるや皆で一斉にと威嚇し始めた。
　さすがにちょっと怖い。
　それでも瀬莉はひっかかれない距離で笑顔を向け、なるべく優しい声で話しかける。
「黒猫ちゃんたちに悪いことしに来たんじゃないよ」
　黒猫たちは威嚇こそやめたが、こっちを鋭い目で睨んでいる。
　瀬莉はさらに警戒心を解くべく、そっとお弁当箱を開き、持参したおかずの余りをひとつずつ見せた。
「みんなのご飯だよ、欲しくない？」
　そう言いながら少しずつ近づいていった。
　ぱくっ。
　子猫の一匹が、鮭の皮にかじりついた。
　それを見た子猫たちが他のおかずを食べ始める。
「いい子だね、食べていいよ。食べたらお願いがあるんだけど……」
　バスケットを示し、中をとんとん、と叩いて目で訴える。
　今まで怖い目で睨んでいた母猫が、ぬっと立ちあがり、自分からバスケットに入ってくれた。
「ありがとう！　すぐ帰るからね」
　うまいこと黒猫をゲットした瀬莉は、ゴールめざして駆け出した。

「尻尾を見せてもらえないかねぇ？」
　瑠樹はまぁるくなって寝ている猫を見つけ、お願いしていた。
「……フニャ」
　しかし猫は知らん顔をしている。
「それじゃあ、尻尾ぱたぱたしてみる？」
　そばに生えていた草を抜き、猫の顔の前でゆっくり上下に動かす。
　すると猫は鼻をヒクヒクさせ、起き上がって尻尾を動かし始めた。
「まっすぐな尻尾だねぇ。ごめん、邪魔したなぁ」
　瑠樹は申し訳なさそうにその場を去り、次の猫を探す。

　そんなことを繰り返して三度目。
「尻尾を見せてもらえないかねぇ？」
「ニャ？」
　そろりと立ちあがってくれた大きなぶち猫の尻尾は、見事に曲がっていた。
「お願い、抱っこさせてよぉ」
　重かったけれど、なんとかかごに入ってもらった。
「ようし、頑張るよぉー！」
　

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