氷と炎の悪夢｜リアクション

氷と炎の悪夢

　連携を絶たれ孤立したエルモは、挑発に乗って完全に我を失っていた。
　対するティオレとサキリは、小さなヒットを積み重ね、着実にエルモを追い詰めていく。
　そして――。
「もらった！」
「ぐ……っ！」
　ティオレの拳がエルモの腹にめりこみ、そのままエルモは顔を歪めて倒れこむ。
　悪魔の片割れを戦闘不能に追い込むと同時、拳を交え続けたティオレもまた、がくりと膝をついた。
「大丈夫かな？」
　案じるサキリに、ティオレは息を整えながら頷く。
「何とか。……すまない、弟の方は任せる」
「分かった」
　言い終えるや、サキリはマチェットを構えてコールへ迫った。
「諦めるんだね。もう勝ち目はないよ」
「くっ……この、調子に乗るな！」
　余裕を失ったコールは氷のサーベルで必死に応戦するが、サキリはナイフ使いの名手だ。見知らぬ相手からも妨害を受け続け、そのうえ接近戦を苦手とするコールに勝ち目はない。
　赤光化させたマチェットでサーベルを折られ、がら空きになった守りをナイフで突かれ、コールは瞬く間に体力を奪われていく。
「ボールペンの出所が気になるかな？」
　サキリの問いかけに、顔を引きつらせるコール。
　ほんの一瞬の沈黙ののち、サキリは立てた親指の先を、そっと背後へと向ける。
「……！」
　その時、コールは見た。海の手を。
　彼女が宙に描いた加速線にの軌道に沿って、ボールペンがあり得ない速度で飛んでくるのを。

『アクセラレイトライン。それが、私のろっこん』

　海のスケッチブックに記されたその文を見て、コールの表情が引きつったものへと変わっていく。
「そんな……まさか……！」
「そういう訳さ。少し、気づくのが遅かったね」
「う……うわあああ！」
　悲鳴を上げるコールの腹に飛び蹴りが叩き込まれ、続けて足首と背中をマチェットとナイフが切り裂いた。
　血液の代わりに、傷口から氷の粒を噴き出して、ガクリと膝をつくコール。
　トドメに飛んできたボールペンを額に浴びて、悪魔はゆっくりと崩れ落ちていく。
　ギャラリーの大歓声に包まれて薄れゆく意識の中、彼が最後に見たのは、海が掲げるスケッチブック。

『勝負あり』

「俺達の、完敗だ……」
　その一言を最後に、コールは倒れた。

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