氷と炎の悪夢｜リアクション

氷と炎の悪夢

（いて！　くそっ、また……！）
　コールの胸中はいま、不安で満たされていた。
　忌々しいボールペンは、あれからも彼の意識の隙間を突くように、絶妙に嫌らしいタイミングで飛んでくる。
（まさかあの二人以外にも、どこかに敵が……？）
　不審に思って辺りを見回すも、怪しい人間の姿は見えない。

　そうしてコールは考える。『三人目』が誰なのかを。
　ナイフ使いの少年と、盗賊めいた女は違う。
　おかしな真似をすれば、姉貴がそれを見落とすはずがない。
　スケッチブックの少女も違うだろう。
　彼我の距離は数１０ｍはあるのだ、弓でもない限り飛ばせる距離ではない。

（誰だ？　誰が……？）
　悪魔コールは恐怖した。
　銃であれ弓矢であれ、飛び道具のような遠距離攻撃は撃てば当たるというものではない。高度な集中力、そして必殺の決意が要求されるのだ。
　彼にとって、これは即ち無言の脅し。
　このボールペンをいつでも銃や矢に、なんならナイフに変えてもいいんだぞ――。
　そんな無言の意思をコールは読み取る。
　熟練の狙撃手に匹敵する、狙いすました狙撃。『三人目』の与えるプレッシャーは、尋常でなく重い。
（くそ、くそ……一体どこから攻撃してやがる！？）
　目の前では姉のエルモが、ティオレとサキリの猛攻を浴びて苦戦に追い込まれていた。
　邪魔な奴は残らず叩き潰してきた、あの姉が。
　吹雪を放とうとしたコールの側頭部を、またもボールペンが叩く。お前達の命はいつでも取れる、そう言わんかのように。

　――負ける？　俺達が？

　コールの心を、恐怖がゆっくり蝕んでいく。

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