氷と炎の悪夢｜リアクション

氷と炎の悪夢

　戦いはほぼ互角のまま進んでいった。
　太陽のように熱く眩い炎を拳に宿し、殴りかかるエルモ。
　砲丸のように巨大な氷塊を生成し、射出するコール。
　ティオレは燃える拳を引きつけ、それを紙一重で躱しながら、カウンターで攻撃を叩き込む。
　サキリもまた、斬空赤刃の瞬間移動を伴う斬撃をエルモに浴びせ、遠距離からの一撃離脱を繰り返す。

「凄いパンチ……！」「頑張れー、負けるなー！」
　激闘の熱気に誘われて声援を送るギャラリーに、ティオレとサキリは肩を竦めるしかない。
「やれやれ、呑気なものだ――」
「よそ見してるんじゃないよ！　ほらコール、援護しな！」
　つい苦笑を漏らすティオレ。そんな彼女をエルモは狙い定めて猛攻を浴びせる。
　熱風を生む拳と、アスファルトを踏み砕くストンプに、ティオレの体にもダメージが蓄積していく。
「そこだ。もらった」
　サキリは瞬間移動を交えた一撃離脱でエルモを切り刻みながら、コールにちらと目を向ける。
　コールが放つ氷塊の狙いが、先程から妙に粗いのだ。攻撃を行おうとしては顔をしかめ、周囲を警戒するといった行動を繰り返している。

「援護だよ！　聞いてるのかいコール！」
「ああ、聞いてるよ姉貴……いてっ！」
　氷塊を放とうとしたコールが、ふいに顔をゆがめる。
　額をさすりながら目を落とした彼が睨みつけたのは、地面をコロコロと転がる一本のボールペン。
　エルモに加勢を求められ、サキリやティオレを狙うたびに、コールの隙を突いて飛んでくるのだ。
「……くそっ、誰だ！」
　苛立ちをぶつけるようにボールペンを踏みつけるコールを見て、ティオレは悪魔の連携が乱れ始めたのを感じ取る。
「女悪魔。それがお前の全力か？　大したことはないな」
「……消し炭にされたいのかい？」
　ティオレの一言に、エルモは角から炎を迸らせて問い返す。
　猪突猛進な性格ゆえか、挑発と分かっても怒りが顔に出てしまう性格らしい。
　ティオレの意図を悟ったサキリは、飄々とした口調で更なる挑発を加える。
「エルモだっけ？　ちょっと拍子抜けかな」
「おい姉貴、挑発に乗るな」
　コールの言葉を遮り、ティオレは畳みかけるように言った。
「女悪魔、お前は確かに強い。この星の、下から数えて二番目か三番目くらいにな」
「死ね！！」
　エルモが返事の代わりに寄こしたのは、燃える拳だった。
　挑発にまんまと乗ってきた女悪魔と距離を取って、マチェットを構えるサキリ。追撃の態勢をとったエルモの横合いから、ティオレが膝蹴りを叩き込む。
「隙あり、だな」
「ふざけるな……！！」
　怒りに滾る炎の拳が、またもいなされた。生じた隙を逃す事無く、サキリが瞬間移動でマチッェトを振るう。
　エルモの拳を見切った手応えを得て、二人は悪魔達に堂々と告げる。

「さて、そろそろ守りに回るのは終わりだな」
「ああ――ここからは僕達のターンだ」

　拳をいなし、返す刃で蹴りを叩き込むティオレ。
　赤光化したマチェットで斬りつけ、脇腹を狙い穿つサキリ。
　戦いの形勢がぐらりと傾く音を、エルモとコールは確かに聞いた。

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