＜基本給＋歩合＞寝子島デジタルマッピング｜リアクション

＜基本給＋歩合＞寝子島デジタルマッピング

昼過ぎ・エノコロ岬

　内側に張り巡らされた長い螺旋階段を上りきり、一番乗りで灯台頂上に到達したのはエカテリーナ・クロキだった。
「ん〜気持ちいい〜」
　強い風がショートヘアーを揺らす。太ももには長い階段を駆け上がった充実感があった。
「ここはトレーニングコースに入れてもいいな」
　苦労の末の、この灯台上からの絶景。３６０度、視界を遮るものはない。

「梅戸君もう少しだよ」
「頑張ってください……！」
　佐藤英二と御巫時子が階段を登りきり、梅戸有留を応援している。
「ひぃ、ひぃ、ひぃ」
　カメラを背負った有留がようやくたどり着くと、まばらな拍手が起こる。
「夏朝にシールを貼ってもらったんじゃなかったのか？」
　エカテリーナが小さな声で時子に尋ねた。英二が背負っているとき、有留に気づかれないタイミングで、シールを貼っているところを見た。
「階段を上っている途中で効果が切れてしまって……」
　有留が息を整えるのに集中している隙に、時子がやはり小声で答えた。
「おかげで危うく螺旋階段から落ちそうになったよ」
　と、英二。
「それは災難だったな」
「そこからは交代交代で登ってきました……」

　膝に手を付いていた有留は、汗で前髪の濡れた顔を上げると、
「わあ……すごい」
　まず、さっき歩いてきた寝子ヶ浜海岸の美しい汀線に、言葉を失いかけた。少し遅れて、英二と時子も眼下に広がる絶景に心を奪われる。
「ここからの景色は、タウンビューで見た人も驚くだろうなあ」
「ですね……」
　３人並んで、灯台屋上をぐるぐる回り出す。
「私は、一足先に下りて、岬を撮影してくるよ……夏朝と月詠は？」
　赤く錆び付いた厚いドアを開けて、灯台の中を覗いてみるが、人の上がってくる気配はない。
「屋上の景色は私たちに任せて、下で休んでるそうです……」
　時子が説明すると、エカテリーナは、ふむ、と鼻で返事し、階段をリズムよく下りていく。
「お、梅戸君、あそこ見てよ！」
　英二が灯台の手すりから身を乗り出して、下方を指差した。
「なんか洞窟みたいなのがある！」
　見ると確かに、エノコロ岬の西側、緩やかな岩壁の途中にぽっかりと開いた洞窟の入り口があった。
「なんだろう……あれ」
　有留が目を凝らす。
「あそこを撮影したら、さらに歩合が稼げるんじゃない？」
「そうですね、行ってみましょう……」
　英二と時子は乗り気だ。
「う、うん……ちょっとだけ休んでからにしよう」

　灯台が作る影の先端にシートを敷いて、恵御納夏朝と旅鴉月詠は弁当を広げ昼食を楽しんでいた。
「この灯台は、もう使われてないのかな」
　唐揚げをくわえながら、月詠はさっそくスケッチブックを開いている。伸びる影の先に灯台が建ち、岬には様々な植物が好き放題に伸びている。手入れの行き届いていない部分が目立つ。
「どうなんだろう」
　スポーツドリンクでのどを潤しながら、夏朝が答える。
「とても奇麗な場所だから、もっと栄えるといいんだが」
「観光地にするにはちょっと、駅から離れてるね」
「確かに」
　だからこそ、自然体な景色を心行くまでデッサンできる、とも月詠は思った。
「ちょっとだけ散策ついでに、撮影してくるね」
　カメラを背負い、夏朝が立ち上がる。もちろんシール付きのカメラだ。
「これも食べて行け」
　特大の卵焼きを夏朝の口に突っ込む。
「ふみゃ、ひってきまふ」
　口をモゴモゴさせながら、夏朝は岬の先へ歩いていく。

「「！！」」

　２人が草陰を走る一匹を見つけたのはそのときだった。

　ぬこ！

　２人、アイコンタクトを取ると、猫を追いかけていった。