寝子高でお茶会を｜リアクション

寝子高でお茶会を

　アカリ・ゴールディングは差し出されたチラシを反射的に受け取った。相手は自分と同じ寝子島高校の生徒である。
「参加自由なんで、是非来てねー」
　彼が他の通行人へとチラシを差し出す様子を見ながら、視線を落とす。
「学校主催でハイティー？　ワオ、絶対参加しマース」
　場所は寝子高の屋上、丁度、休日の今日から開催しているようだ。行かない手はない。
　アカリはそのままの足で向かうことにした。

　鴻上彰尋は臨時に設置されたキッチンのそばの簡易更衣室で執事服に着替えていた。
「こういうのもたまには新鮮だな」
　支度を終えて、キッチンへ入ると、コック服の男性がサンドイッチを作っていた。大きめのオーブンにはケーキ生地らしき丸いスポンジが入っている。
「あれ、君今入ったの？　丁度良いや。このサンドイッチ、三番テーブルにお願いね」
　完成したサンドイッチを白い皿に盛りつけ、お盆と一緒に渡される。
　早々に仕事を任され、戸惑ったものの、まずはウェーターだ。
　そのままフロアへと出る
「三番テーブルは……あれか？」
　白いクロスのかかったテーブルは無作為に並んでいるのでイマイチ番号がわかりづらい。
「あれで合っているわ」
　客のテーブルから戻って来たのはメイド服に身を包んだ、森の妖精とでも表現すべき少女、三宅葉月だった。
　　

　数日前。
　放課後、三宅葉月は絵を描くために屋上へとやって来た。
「あら。こんにちは」
　声をかけてきたのは桜栄あずさだった。言わずと知れた寝子島高校の理事長である。
「桜栄理事長……こんにちは」
　軽く会釈をして横を通り過ぎた時、肩を掴まれた。
「あなた、ちょっと」
　体を反転させられ、両肩を掴まれる。
「良い、良いわね。あなた、今度の日曜日暇よね？」
　葉月は不思議そうに首を傾げた。
「予定を確認しないと、わかりませんけど……」
「なら、決まりね。ここでお茶会を開こうと思っているの。あなたはメイド服でウエーターをしてもらうわ」
「はあ……でも私は」
　力の入る両肩の手とあずさの圧のある笑顔で悟った。逆らえない、と。
　
　そして、日曜日。
　葉月は理事長が用意したメイド服に身を包み、お茶会参加者の接客をしていた。
「……何故かしら？」

　解放された屋上に足を踏み入れた日々野結衣香は様変わりした雰囲気に心が躍った。
「オープンカフェみたいです」
　用意されたテーブルには真っ白なテーブルクロス、その間を行き来するメイド服や執事服のウエーター達。お茶会とは聞いていたが、結衣香の思い描いていた通りの光景だった。
「いらっしゃいませ。お一人様ですか？」
　声をかけてきたのは、メイド服の七夜あおいだった。
「はい！」
　結衣香が元気よく返事をすると、あおいは端の席へと案内してくれた。読書をしたいと伝えたためだろう。
「それではメニューをどうぞ」
　結衣香はわくわくしながら、革製のメニューを受け取った。

　八神修が着替えを終えて厨房からフロアへ出ると、先に出ていた七夜あおいが走り寄ってきた。
「おはよう、修君」
「ああ、俺が誘ったのに遅れて悪かった」
　とは言っても、修は約束の十分前には着いたのだ。あおいが早かったのだろう。
「今日はすっごく早く起きたから」
　あおいはそう言って、取って来た注文票をキッチンの小窓から料理長へと渡す。
「おねがいしまーす。アフタヌーンティーのセット、イチゴのショートケーキでミックスサンドイッチです」
　すると、料理長が顔を出した。
「君ら、厨房入ったりできるかい？」
　修とあおいは顔を見合わせた。

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