【夜更かしバトル！】

　『カプギアハロウィンナイト』！
　そんな楽しげな響きを耳にしてから幾日、仙藤 蒼のわくわくは日増しに高まり続けておりました。
「なんのコスプレしよっかな～？　Diablo Azulにも、おめかしさせなくっちゃね♪」
　当日はみんなでハロウィンルックに身を包み、ハロウィンデコレートしたカプギアを持ち寄って、バトルにコンテストにとめいっぱい楽しむのです。
　それがカプギアハロウィンナイト！
「さーて、準備しないと！」
　蒼は張り切って、あんな衣装がいいかな？　こんな衣装はどうかな？　と楽しく悩むのでした。



　そんなわけで、ハロウィンカプギアナイト、その当日。
　いつもは家で宿題に追われているか、ベッドに寝転んでマンガでも読みながらそろそろ寝ようかな、てな感じによい子たちはおねむな時間ですけれど。
「今日は夜更かししちゃうわよ～！」
　オネエしゃべりが特徴的な男の子、黒江 ナオは普段見ているシーサイドタウンと違った光景に、興奮を隠しきれません。
　広場の中央には焚火台の炎がごうごうと燃え盛り、星の瞬く夜空を真っ赤に照らしています。あたりにはナオと同じ年頃の子どもたちや、イベントの主催者であろう大人たち、高校生くらいのお兄さんお姉さんも多くいて、そのいずれもがハロウィンらしく吸血鬼、狼男、ゾンビなポリスにナースなどなど、実にバリエーション豊かなコスプレルックに身を包んでおりました。
　もちろんナオも、死ぬまで外さないと豪語するいつもの猫耳姿で、ばっちり場に溶け込んでいます……もっともナオがこのイベントを知ったのはまったくの当日でして、なんの準備もしていなかったのですけれど。猫耳つけててよかった！
「あたしの『スカルブーティちゃん』も、ちょっとハロウィンっぽいものね。ちょうど良かったわ」
　スカル（骸骨）+ブーツ（長靴）+キティ（子猫）ちゃん、という由来を持つ愛機の目をなんとなく光らせつつ、さてどの催しに参加しようかしら？　と考えておりますと。
『良い子のみんなー！　そろそろギアバトルロイヤル・シングル部門が始まるぞ！　腕に自信のある君、実力を見せつけるチャンスだぞ～！　もちろんそうじゃない子も大歓迎だ！』
　国内唯一のプロ・ギアマスターと言われるCAPGEAR MEIJINの司会進行のもと、バトル大会が間もなくスタートするようです。
「う～ん。本当は、協力戦っていうのに参加してみたかったんだけど……」
　にゃんこの骨格に帽子と長靴、といういで立ちのスカルブーティちゃん（ちゃん、までが正式名称です。間違えないでね！）ですから、敵となるゾンビ型カプギアに混ざっていたら、なんだか勘違いされてしまいそう。
「よしっ。シングル戦に出てみましょ！　がんばろうね、あたしのスカルブーティちゃん♪」
　きらり！　目を光らせたマイカプギアを手に、ナオはエントリー受付へ向かいました。



　バトルロイヤルスタート！　大人数が一斉にカプギアを操り、大乱戦を繰り広げます。
　バトルフィールドは、『墓場』。その名のとおりに墓石が立ち並び、空中にはふわふわとゴーストたちが漂います。
　銃弾がどがががが、剣やら槍やらばずばしゅばと飛び交う中に、
「当たらないのです～」
　ゼロ・シーアールシーの操る『しろにゃんこ』の姿がありました。
　なんとも愛らしいふわもこにゃんこ型カプギアは、とにかくスピード重視。墓石と墓石の間をぎゅんぎゅん走り抜け、弾も刃も避けまくりの翻弄しまくり！
「な、なんだあいつはえー！」
「あ、あいつからやっつけよーぜ！」
「よーし！」
　なんて一部のギアマスターたちが結託し、しろにゃんこめがけて同時に銃弾を浴びせますけれど、なんのその。
　ひょいひょい、ひょいっ！
「今日のしろにゃんこは、ハロウィン仕様なのですー」
　よくよく見れば確かに、しろにゃんこの周囲にはホログラフのヒトダマがゆらゆらり。
　もちろん、それだけではありません。しゅぱぱぱぱっと目にもとまらぬスピードで肉薄すると、
「さあ、今こそ必殺ねこパンチの威力を見せるときなのです……すべてを両断する必殺のにゃんこクローを、喰らうがよかろうなのですー」
　しゃきん！　ずっばーーーーっ！
「うわーっ、なんかスゲーのでやられたーっ！」
「……あれ？　こんな技あったっけ、なのです」
　ハロウィン仕様ということもあり、しろにゃんこもはっちゃけ気味なのかもしれません。たぶん？
　ともかく集中砲火をらくらく避けつつにゃんこクローでずばどしゅずばばばばん！
「あら、強敵出現かしら～」
「おー？」
　周りの敵カプギアを一掃したところで立ちはだかるのは、ギアマスター・くろナオちゃんのスカルブーティちゃん！
　勝敗にはさほど興味がなく、いわゆるエンジョイ勢なくろナオちゃんですけれど、なんだかんだとここまで敵カプギアを退け勝ち残っていたようです。
「あのコもやっつけちゃうわよ～、スカルブーティちゃん！」
　勢いに乗るスカルブーティちゃんは、左の爪でしゅばばっとひっかき攻撃！
　しろにゃんこも機敏に動き、なんとか初撃を外すとにゃんこアームから必殺ねこパンチを繰り出します。
　あたりにはほかのカプギアは見られず、ここは一騎打ちとなりそうです。

「しろにゃんこ、ゆくのですー」
　化け猫仕様のしろにゃんこは爪を振るい、スカルブーティちゃんも負けじとクロー攻撃をしゅぱしゅぱずばん。どうやらこの二体、ちょっぴり似た者同士？　なのかも。
　しろにゃんこの猛攻を避け、スカルブーティちゃんは隠し玉の尻尾攻撃！　しろにゃんこは辛くも身をひねり、かすり傷……と思いきや、
「あれれ。ちょびっと当たっただけで、すごい威力なのですー」
「ふふ、あの尻尾には毒があるのよ！　一度の勝負で、一回しか使えないのだけど……」
　戦闘中はじわじわとダメージを回復する機能を持つしろにゃんこのボディですけれど、それを上回る勢いで毒のダメージが加算されていきます。もはやあまり時間はありません。
「負けちゃう前に、勝つのですー。やっつけるのですー」
「なんの、あたしだって負けないわ！」
　動きの鈍ったしろにゃんこへ、スカルブーティちゃんのクローがざくり。しろにゃんこはくるりと身をひねり、受けた衝撃を活かして鋭く反撃！　スカルブーティちゃんの帽子がずばんと切り裂かれます。けれど退かず、スカルブーティちゃんはさらに踏み込みクローを振るい、しろにゃんこは跳躍してそれを避けながらに大上段から大ぶりの一撃！
　一進一退、めまぐるしい攻防が続きましたけれど、やがて。
「今よ、スカルブーティちゃん！」
「ああっ」
　ずば、ずばん！　渾身の力を振り絞り、互いが繰り出した一撃。　
　最後に立っていたのは、
「まーけーたーのーでーすー」
「わあっ、やったわ！」
　くろナオちゃんのスカルブーティちゃんでした。お見事！
　ぱちぱちぱちぱち。唐突な拍手に、ふたりが視線を巡らせますと、
「すばらしいギアバトルだったね、君たち！　さあ、報酬を受け取りたまえよー！」
　いつの間にやら、好勝負としてギャラリーに注目されていたようです。
　CAPGEAR MEIJINから景品のカプギア関連グッズ詰め合わせを受け取り、ナオはにっこり。ゼロはイマイチ無表情ですけれど、
「わーい。もらったのですー」
「うふふ、良かったわね。良い勝負だったわ、ありがと！」
　どうやらばっちり、大満足♪