【演劇祭】ワンス・アポン・ア・タイム・イン・寝子島！｜リアクション

【演劇祭】ワンス・アポン・ア・タイム・イン・寝子島！

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　背中に軽い衝撃が走ったかと思うと、次の瞬間には舞台の上に居た。
　いい感じにまとまりそうだな、と舞台を眺めているだけだったレオンは、一瞬何が起きたのかよくわからなかった。
　事故なのか、それとも故意なのか。
　誰かとぶつかって、舞台に転がり出てしまったのだと気づくには、そう時間はかからなかった。
　流石に、このまま何事もなかったかのように戻るわけにはいかない。
　視線が集中するなか、レオンはどうにかして言葉を紡ぐ。穏やかに、優しい笑みをたたえながら。
「……ここまでよく頑張りましたね」
　ですが、と。
　微笑みが、邪悪な笑顔へと一変した。
「ここで終わりです。あなたたちはここで倒れるのですから！」
　半ば以上ヤケになっているのもあったのだろう、後半の声色はやや裏返りぎみだった。
　大げさに、思いっきり勢いをつけて手を振りかざす。
　スタッフがうまく合わせてくれたのだろう、氷っぽいエフェクトが勢い良く投影された。
（もうどうにでもなれ！　後の展開とか知るか！！！）
　オーケストラの指揮者のような激しさで、魔法使いは次から次へと氷の魔法をぶちかましまくる。
　岩陰に隠れてやりすごしながら、ピーターパンが言う。
「俺とワニ、白兎はかつて、埋蔵金を探しに鈴島へやってきた。でも埋蔵金には、あの魔女の呪いがかかっていたんだ。欲望に支配され、奪い合うようにしむける呪いが！」
「じゃあ、あの探偵さんが言ってたことは……」
　ウェンディの言葉に、ピーターはゆっくりと、しかし確かに頷いた。
「真実ではある。でも、それが全てというわけじゃないんだ」
「それはわかったけど！　でもなんで本人が！　襲ってくるの！？」
　ペンギンの叫びに、魔法使いは邪悪な高笑いをあげる。
「埋蔵金の噂に釣られてやってくる愚か者たちが破滅する様を見るのが楽しみだったのよ！　でも見るだけじゃだんだん物足りなくなってきた！　それだけのことよ！」
　なんだかんだノリノリである。
　しかも、ノリノリすぎてめちゃくちゃ強い。演出的にも、テンション的にも。
　清姫との戦いのダメージや疲労もあるのに、どうやって魔法使いと戦えば？

　その時だ。魔法使いが立つのとは反対側に、不意にスポットライトがあたる。
　そこに立つのは、緑のゴスロリ魔法少女。曖浜瑠樹演じる、るーじゅである。
「ゆるるふーわ、けなみふーわ……皆、もーっと素敵になーぁれー！」
　ファンシーな効果音が鳴り響き、金色の光のエフェクトが舞台に降り注いだ。
　光は皆の身体を包み込み、傷を癒やし、そして力を与えてくれる。
「同じ魔法使いとして、私もいいとこ見せなきゃね！」
　宅配便の魔女が杖を振るうと、氷を跳ね返す勢いで突風が吹き荒れた。
「日頃のご愛顧に感謝のサービスです、どうぞ」
　もはや呼ばれるまでもなく現れる配達員のお兄さん。台車に乗っけた檻を開くと、飛び出したのはなんと猫娘。
「僕が白兎にあんなことをしちゃったのも、ブラックバニーが大暴れしちゃったのも、全部オマエのせいだったのにゃー！　覚悟にゃ！」
「なっ……！」
　動揺する魔法使いに飛びかかり、鋭くきらめく爪で一撃。
　たじろいだところへ、台車に飛び乗ったペンギンが突っ込む！
「知ってる？　ペンギンパンチって、人間さんを吹っ飛ばせるくらい強いんだって！！！」
　ギリギリのところで飛び降りて、勢いを乗せたペンギンパンチが魔法使いに炸裂する。
「ぐはぁ……！　ば、ばかな、この私が、こんな……！」
　ぐるぐると舞台の上でまわってまわって、魔法使いが退場する。
　爆発エフェクトが投影されたかと思うと、この間ずっと投影されていた氷のエフェクトがぴたりと止んだ。
　次いで投影されるのは、晴れ渡る青空とその下で輝くたくさんの金貨たち。
「こうして悪い氷の魔法使いを倒した一行は、呪いの解けた埋蔵金を持ち帰り、寝子島の皆のために使ったのでした。――めでたし、めでたし」
　鴻上彰尋のナレーションで、暗転。
　暗幕が降りて、即興劇は終わりを迎えた。

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