【演劇祭】少年座　『カマル王子とブドゥール姫』｜リアクション

【演劇祭】少年座　『カマル王子とブドゥール姫』

　カマル王子を演じるブドゥール姫という難しい役柄を見事にアカリが熟し、場面は黒檀の島へと移る。
　カマル王子として振舞っているブドゥール姫はそこで黒檀の島国王アルマノスに気に入られ、一人娘であるハイヤート姫との結婚を求められてしまうのだった。

　暗い舞台の中、端へとスポットライトが集まる。そこにいるのはパンジャビを纏いハイヤート姫を演じる遊琳だ。
　そして、ハイヤート姫のモノローグが始まる。

「私はハイヤート。黒檀の島の王であるアルマノスの一人娘」

　ゆったりとした歩みで端から中央の方へと歩き出すハイヤート。その間にもモノローグは続く。

「この島で私は王族としての教育を受けながら不自由なく過ごしていた」

　一歩、二歩と進んでは語られる言葉。

「だけど、唯一問題なのは私の結婚相手。此処は島国、私は一人娘。父王は入れる婿にお困りだった。そんな時に現れたのがカマル王子」

　そこでバッと手を広げ観客席に向いて投げかけるように言葉を紡ぐ。

「でもきっとお父様のお眼鏡に適った御仁なら大丈夫。そう、きっと！」

　ハイヤートがそう言ったところで、照明が舞台全体を照らしハイヤートのすぐ傍にはカマル王子が立っていた。

「ハイヤートと申します、殿下」

　自らの前へと進み出てきたカマル王子に変装しているブドゥール姫へとスカートの裾を摘まみ、王族の子女らしい挨拶をハイヤートが行う。

「そうしてご挨拶をした人はとてもこの世の者とは思えない程に美しく、私は安心する事が出来た」

　観客席の方を向いて、そう言いながら心の底から安心したという笑みを浮かべてハイヤートのモノローグは幕を閉じる。

「殿下？」

　誰にもスポットライトが当たらない暗い舞台の上でハイヤート姫である遊琳の声が響く。
　そして、次の瞬間、カマル王子に変装しているブドゥール姫であるアカリとハイヤート姫である遊琳が壇上へと浮かびあがるように登場。

　刻一刻と婚儀が近づき、その準備に城の者達が忙しく働く夜。
　ブドゥール姫は褥には入らずハイヤート姫を呼び寄せた。

「ハイヤート姫。貴方に――お話があります」

　窓から差し込む月光を模したスポットライトを背に振り返るブドゥール姫。その美しさは正しくこの世のものではないようで。
　その演技を見た幾つものの観客席から息を呑むような、そんな呼吸音が聞こえた。

「お話、ですか？」
「はい。実は――」

　そして、ハイヤート姫へと告げられる真実。
　目を見開き、その真実に驚愕の表情を浮かべるハイヤート姫。それは、カマル王子だと思っていた人物が女性であるブドゥール姫であったに驚いたというのもある。
　だが、けしてそれだけではない。それだけでないのは誰が見ても解る。そんな演技だ。

「何て……」

　何て重い。万感の思いと共に呟かれる言葉。
　その呟きこそがこの劇を見ている観客へと何よりの重さを与える。まるで深い深いものが覆いかぶさったかのようだ。
　だけど。それが唐突に晴れる。ハイヤート姫が決意の瞳をブドゥール姫に返したその瞬間に。

「よくぞお話下さいました。私は貴女様を尊敬しますわ。お約束致しましょう、固く秘密を守ると」

　それは父王に夫婦の契りを結んだという嘘を吐く決意をした瞳だ。
　この気高き姫のその気高さを守って見せるという決意はあまりにも固いが、まるで秋晴れのように澄んだいた。
　そして、二人はそっと手を取り合って微笑みあったところで照明は落ちる。

このページにイラストを設定する