雪に埋もれた寝子島｜リアクション

雪に埋もれた寝子島

　星ヶ丘駅に到着した夏朝は、人がたくさん集まっている所へ行ってみた。
「この度は雪かきにご協力いただきまして、誠にありがとうございます。雪国出身の私が、僭越ながら皆様の腰を守るため、雪かきのコツをレクチャー致します！」
　ボランティアで集まったらしき人々の向こう、小さな壇上に駅職員の男性が立って挨拶している。
「た、確かに……雪かきで腰を痛めるとか、よく聞くもんなぁ」
　彼曰く、スコップにはめいっぱい雪を積まず、両腕で難なく運べるくらいの少なさに。
　雪をすくう時は上半身を曲げてかがむのではなく、下半身を使って運ぶこと。
　口頭での説明の後は、雪かきの動きを模したという体操を教わる。
「もしご気分が優れない方がいらっしゃいましたら、職員にお声がけ願います。お疲れや、お帰りの際は甘酒と梅昆布茶をご用意しておりますので、よろしければお飲み下さい」
　その後、休憩所と雪を捨てる場所を教わって、いざ作業開始である。
「ざくってしてぽーい、ざくってしてぽーい」
　夏朝は教わった通り少しずつ雪を運び、回数を稼ぐ作戦に出た。リズミカルにこつこつ雪かきを進めてゆく。
　一段落したら、テント下の休憩所で一休み。
　湯飲みに梅昆布茶を入れてもらって、ふうふう言いながら飲む。
「ふわぁ、あったまるなぁ」
　お腹の中から広がり、体中に染みわたるかのような温かさに、夏朝はしばし酔いしれた。

◆

　若菜の働く病院では、午後から雪道で滑って転んだり、雪かきで腰を痛めたりした人の来院が増え始めていた。
　午前中は子供の採血や回診、治療方針の決定と指示出し、カルテの記入などを行っていたが、やはり雪の影響は免れないか、と少し心配になる。
「若菜せんせ！」
　そんな昼休みに談話室を通りかかると、幼い男の子と女の子に声をかけられた。
「ん？　渉くんに美香ちゃんじゃない。お昼ご飯はちゃんと食べられたかな？」
　うん！　と元気よく返事をする二人の頭を撫でる。彼らは若菜が受け持つ患者だ。
「せんせ、雪がふってるね！」
「お外、まっしろだね！」
　先生は雪遊びをしたことがあるか、と問われて、あるよ、と返事をすると、ちらりと二人は窓の外、中庭に視線をやった。
　そこには、雪だるまにかまくら作り、雪合戦など思い思いに雪を楽しむ子供達の姿。
「……そっか。外でみんなと遊びたいよね」
　若菜はそっと二人の肩を抱いた。
　小さな体で辛い治療に耐える子供達には、外遊びが可能な子もいれば、そうでない子もいる。この二人は後者だ。
「せんせ、雪合戦ってたのしい？」
「わたし、本でみたうさぎさん作りたい！」
　若菜は二人の話にうん、うん、と頷き、微笑んで頭を撫でる。
　窓の外、真っ白な雪景色はまるでキャンバスのようで。

（貴方たちはどんな未来を描くのかな……素敵な色で染められるように、私も努力しないとね）

　夢の思いを馳せ、二人を病室へ送り届けたところで「志鷹先生！」と呼ばれた。
「はい、今行きます！」
　行かなくては。小さな命が救いを求めているのだから。　