雪に埋もれた寝子島｜リアクション

雪に埋もれた寝子島

　極寒の道中を進み、何とかシーサイドタウンへたどり着いたアカリ。
　服飾店に行けば、店員もてんてこまいで冬物の準備に追われている。
「本日は足下がお悪い中、ご来店ありがとうございます。コートと手袋、マフラーでございますね」
　顔色真っ青で歯をガチガチさせているアカリを見かね、店員は店の休憩室に置いてあるココアを入れてくれた。ありがたく頂いて冬用の保温下着もいくつか購入。
　買ったばかりの防寒着を試着室で着込み、ファーストフード店でセットメニューを頼んで昼食にする。
「Oh my god！　パパン……アカリはもうすぐ異国の土になりそーデース。ママンが手を振っているのが見えマース」
　ハンバーガーとデザートの熱々アップルパイを食べ終え、人心地ついてホットコーヒーをすする。
　隣席の客が温かそうなコーンスープを飲んでいるのを見て、アカリは食料品店にも寄って行こうと考えた。
「温かい飲み物が無いと……寮に入って数日でサム死ぬデース……」
　閉店間近まで粘ってもいいのだが、それでは今より帰路がもっと寒くなるかもしれない。
　日のあるうちに帰ろうと、アカリは渋々席を立った。

◆

　アリサは少し浮かれていた。
　寝子電が運休では出勤できないと、店長に連絡をとったら休みをくれたからだ。部屋にいても寒いので外に出たら、お日様の当たるところは部屋の中よりも暖かく、拍子抜けしたくらいである。
　雪化粧の町を足下に気をつけて歩いていると、そこここにかまくらや雪だるまがあり、子供達の遊ぶ声が聞こえてくる。
「へぇ～、噂には聞いてたけど、これが雪遊びってやつね。ふんふんなるほど……」
　雪だるまをしげしげと眺め、手袋を外してつついてみる。雪が降らない沖縄出身のアリサには、何もかもが珍しい。
「うーん、何かむくむくと創作意欲がわき上がってくるのを感じるわ……あたしもいっちょ作ってやろうじゃないの」
　道ばたで雪を丸め、転がして小さな雪だるまを作る。
「えっと、何か手になる枝とかないかな……」
　完成した雪だるまをそっと抱えて、小枝を探して歩いていると。
「よーし、かまくら作るぞー！　おー！」
　どこぞの広い庭先で、スコップを掲げて気合いを入れている少女――夏朝と目が合った。

◆

「ふぅ、大分きれいになったかな」
　朝衣は役場前の広場を見渡して、サングラスを外してため息をつく。周りでは他の職員たちも休憩したり体を伸ばしたりしている。
　雪に阻まれ、普段とは段違いの時間を要して出勤した朝衣は、腰を落ち着ける間もなく雪かきに駆り出されたのだ。
　元々町長が率先して雪かきをやろうとダッシュしたのだが、「書類の裁決がありますから」と町長室に引き戻されてしまったので、若手の仕事と相成ったのである。
「あー、疲れた疲れた、働いたぁ」
　役場前の広場、同僚とベンチに座って温かいミルクティーを飲みながら、朝衣も体を伸ばし、腰をさする。
「結局、今日の仕事は雪かきみたいなもんね」
「そうだね。寝子島でこんなに雪が降るなんて、あたしが生まれてから初めてかも」
「私もー。でも、雪国に生まれたみたいーなんて、感動は長続きしなかったな」
「そうそう。寒いし、雪は重いし腰にくるし……それに、太陽が反射して眩しい！」
「三折部さん、サングラス結構似合ってるよー」
「ほんと？　今度凝ってみようかな」
　同僚と笑いあい、くいっとサングラスを動かしてみせる。
「あら、雪かきしてくれたのね。ありがとう、お嬢さんたち」
「ありがとー」
　祖母と孫の二人連れに挨拶され、笑顔で手を振る。
　混乱が落ち着いたのか、午後になってからぽつぽつ役場にくる人たちが増え、案内したり、車を誘導したりも多くなる。
　誰も彼もが感謝してくれるので、朝衣は疲れが吹き飛ぶような気がしてきた。
「よーし、もう少しだけ頑張っちゃおうかな！」
「了解！　じゃあ行くとしますか」
　同僚とハイタッチして、朝衣はまだ雪かきの終わっていない箇所へ歩き出した。

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