雪に埋もれた寝子島｜リアクション

雪に埋もれた寝子島

　大雪の朝。臨時休校の知らせを受けた八神修は、シェフが急遽温かいメニューに変更してくれた朝食を食べ終え、エアコンの効いた自室に戻った。
　受験勉強のスケジュールをチェックし、ノートと筆記用具、過去問の問題集を用意。
「予定を前倒しできそうだな」
　くるくるとシャープペンシルを回して、しおりつきのページを開く。勉強と読書を趣味と自負する修だが、それは日々の努力が不要という訳では無い。
　それに、過去問という先達の英知との切磋琢磨は、高揚感と同時に妙な安らぎを与えてくれるのだ。
「っくぁー！　これで今日の分は終わり！」
　休憩を挟みつつ９０分、机上での格闘を終えて、ベッドに身体を投げ出すと。
「うわ、ちょ、ちょっと待て！　重いって！」
　ペットの猫たちがわらわらと群がってきて、身動きが取れない。猫と比べれば少数派の犬たちは、お座りの姿勢で尻尾ふりふり、じっと修を見つめている。
「……せめて、雪がどうなってるか情報収集を……」
　猫まみれになった修が、スマホの画面で見たものは。
「寝子電運休のため、雪かきボランティア募集中？」
　ねこったーにＵＰされた、白く染まった星ヶ丘駅の写真だった。

◆

「それじゃ、行ってきます！」
　恵御納夏朝は冬服を着込んだのち、こっそり飼っている不思議な猫に留守番を頼み、寮の部屋を出た。
　今朝の季節外れの雪に、神魂の影響を疑った彼女がネットで情報収集をすると、ねこったーで雪かきボランティアの募集を見つけ、手伝いに行こうと決めたのである。
　星ヶ丘駅への道中、ホームセンターに寄り、軽めの雪かきスコップを購入し、てくてく歩く。
　それと同じ頃、旧市街のアパートでは真境名アリサがあまりの寒さに目を覚ましていた。
　タンクトップにパンティのみで寝ているとはいえ、いくらなんでもこの寒さは……と不審に思って窓から外を見ると、完全に眠気が消えた。
「確かまだ１０月のはず……ここ、北海道じゃないよね？」
　見渡す限りの雪化粧に、思わず両手で身体をさする。沖縄出身のアリサはあまり寒さに強くないのだ。
「うー、さむさむ！　冬物冬物ー！」
　水着ガールズバーのキャストという職業柄、季節感ゼロの装いをすることもあるけれど、あくまでもそれは屋内での話。
　セーターと裏起毛のパンツを身につけ、押し入れの中を眺めつつ苦笑いした。
「冬物より商売道具が多いって、あたしも職務熱心だなぁ……」

◆

　季節外れの寒波で大混乱の寝子島に、遠く星幽塔からも召喚された人物がいた。
「あれ、またネコジマ？　……って、ちょっと寒すぎやしないかい？」
　寝子島は初めてではなかったが、ティオレ・ユリウェイスは唐突な雪景色に頭を抱えた。
　何せ、以前来たのは夏。ビーチスターズ何とかというイベントに強制参加させられて以来なのだ。いくらなんでも落差がありすぎる。
　隠れ家にしている場所に召喚されたのはもっけの幸いと、厚手のシャツとカーゴパンツ、マフラーにコートを身につけた。
　外に出て住民達の話に耳を傾けてみると、どうやらネコジマでも今の季節は秋で、雪が降るはずもないんだとか。
「何かと激しい島だねぇ……ま、いいけどさ」

このページにイラストを設定する