雪に埋もれた寝子島｜リアクション

雪に埋もれた寝子島

「お忙しいところ、雪かきにご協力頂きましてありがとうございます！」
「は、はぁ」
　ティオレは何が何だかよく分からないうちに、スコップを渡され、体操を教わって雪かきをすることになった。
　隠れ家から出て、大雪に驚き、近隣住民（ここはホシガオカという金持ちの住む町らしい）の声に聞き耳をたて、建物に群がる人だかりに近寄っていったら、参加することになってしまったのだ。
　しかし、ぶつくさ言いながら働く姿は七夜あおいには美しく見えたようだ。
「ねぇ修くん、あの女の人見て！　アクション映画の女優さんみたいでかっこ良くない？」
「ふむ……夏の新作、『ニャームレイダー』の主人公みたいな感じか？」
「そうそう！　教鞭をとる傍ら、行方不明の父親を探すため遺跡の調査に明け暮れる、凜々しい美女って感じ！」
　同意を求められた修は、頬を染めたあおいがぴょんぴょん飛び跳ねる様を見て目を細めた。
　ねこったーで募集していた寝子電の雪かきを手伝おうと思い外出したら、星ヶ丘駅で彼女とばったり会ったのだ。どきんと跳ね上がった心臓を落ち着かせようとしていたら、「修くん、熱あるの？」と心配させてしまったのは初歩的なミスだと思う。
「おや、八神君と七夜さんではないですか。お二人もボランティアにいらしたのですね」
「五十嵐先生？　……と御巫じゃないか。二人もねこったーを見てここに？」
　尚輝と時子の二人組に、驚く修が問い返すと、時子は頷いた。
「私、間違って学校に行ってしまって……尚輝先生に今日はお休みだと教えてもらったんです。時間もあるし、困っている人を放ってはおけないと思いまして。あ、あそこでスコップを配っているみたいですよ」
　四人で行列に並び、スコップを受け取って雪かき体操を教わる。
「あ、あそこでスノーダンプも貸してくれるみたい」
「丁度いいな。五十嵐先生、女性陣には雪を運んでもらって、俺たちは雪を切り出す係と分担したらどうでしょうか？」
「いいですね。力仕事は男性がやりましょう」
「尚輝先生、修さん、無理はしないで下さいね。寒い仲で汗をかくと、風邪を引きやすくなりますから」
　ハイタッチの後、修たち四人は二手に分かれて雪かきを始めた。
　修と尚輝が雪をブロック状に切り出して、時子とあおいのスノーダンプに乗せ、雪捨て場に運ぶ。だんだん連携も様になってきた所で。
「あっ！　あのお姉さん、今転びそうになった女の子を助けたわ！」
「次はおじいさんを休憩所に案内して、スノーダンプで雪を運んでるな」
　あおいの声に、残り三人はティオレの方を見た。不本意そうな顔で働く彼女だが、その仕事ぶりは何というか……まじめだ。
「一見するとクールビューティーですけど」
「きっと温かい心をお持ちなんですね」
　尚輝が首を傾げ、時子がにっこりと微笑む。
　一段落して休憩しようと、テント下のベンチで甘酒をいただく。
「ふぅ～、さすが甘酒、飲む点滴。癒やされるな」
「御巫さん、七夜さん、八神君の言う通り、甘酒は栄養に富み発酵食品として腸内環境を良くしてくれるんですよ」
「尚輝先生の場合、毎日きちんとお食事をして下さいね」
「ふふっ、言えてる～」
　不思議そうな顔の尚輝を囲み、三人の教え子達が笑い声をあげる。
　そんな時、どさっと何かが倒れる音がした。
「あれ……なんか酔いが回って……？」
「大丈夫ですか？」
「どうしたんだ！」
「それが、こちらの方が甘酒を飲んだ途端、急に……」
　顔を真っ赤にしたティオレが、駅職員の腕の中で目を回している。
「あ、俺救急車呼びます！」
　事情は分からないが緊急事態らしい、と察した修は、スマホを出して通報したのだった。

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