雪に埋もれた寝子島｜リアクション

雪に埋もれた寝子島

　さゆるは以前買った水着に着替え、プールサイドに立っていた。
　星ヶ丘のステッラ・デッラ・コリーナには屋内に温水プールがある。外がいくら大雪でも、ここならば南国のように過ごしやすく、快適だ。
　暇をもてあましていたさゆるには、丁度いい施設だった。
　簡単な準備運動をしてからプールに滑り込み、泳ぐ。陸上での物憂げな感じとは打って変わって、マーメイドのように自由自在に。
「……ふぅ」
　プールを何度か往復して、陸上に戻る。頭を軽く振って水を払っていると、二人組の男性が近づいてきた。
「お姉さん、泳ぎがとっても上手だね！　良かったらオレたちに教えてくれないかな？」
　筋骨隆々の身体は程よく日焼けし、二人とも精悍な面立ちだ。腕時計やアクセサリーのブランドから、社会人だろうか、と当たりをつける。
　１７０センチを超える身長と、硬質な美貌のせいで彼らにはさゆるが学生には見えなかったのかもしれない。
「……悪いけど、予約済みよ。他を当たって」
　そう言って手を振ると、二人組は舌打ちして歩き去った。
　静寂を取り戻し、さゆるはバスタオルで身体と髪を拭く。
　プールサイドのデッキチェアに身を横たえ、最愛の人に夢で会えるだろうか……と考えるも、きっとそれは無いだろうと頭を振る。
　さゆるはゆっくりと、微睡みに落ちていった。

◆

「うわぁ、結構人いるなー」
　九夜山にたどり着いた真白は、ロープウェイ乗り場周りにたむろする人々を見て驚いた。スキーヤー以外にも、商魂たくましく様々な露店まで出ている。
「豚汁に、味噌煮込みうどん、激辛マーボー丼かぁ……せっかくだし、体を温めてスキーを楽しむぞー」
　真白は豚汁を食べてからゴンドラに乗り、すっかり雪化粧した九夜山を眼下に、滑るルートを考える。
「降り場からこう行って、こう滑って行けば……ロープウェイ乗り場まで戻ってこれるかな」
　真白が期待したからといって、ゴンドラの速度が速くなるわけもなく、やっと頂上に到着した時には飛び上がらんばかりだ。
　スキー板の具合を確かめ、ぐっと最初の一歩を蹴り出す。
「イヤッホー！　かーぜがキモチイイー！」
　爽快さにスピードを上げようと前傾姿勢になった途端、木にぶつかりそうになる。
「うわっ！　と……危ない危ない、ここは普通の林道だって忘れてたよ」
　すんでのところで躱し、パウダースノーを巻き上げながら乗り場付近に到着。
「ふぅ～。さて、時間はどれくらい……って、思ったよりかかってないな。結構スピード出したからかな」
　真白はスマホの時計を見ながら九夜山を見上げ、次は別ルートで行ってみようかと計画を立てる。
「道になっていない森の中……誰もシュプールを着けていない新雪……いいよね！　よーし、もう一度上に
行こーう」
　真白はぐっと拳を固め、スキップ……ではないものの、ぱたぱたとスキー板をつけた足を動かしてロープ
ウェイ乗り場へ向かった。