dive into …… ～いざ、絵の中の世界へ！～｜リアクション

dive into …… ～いざ、絵の中の世界へ！～

★白の神子は冒険がしたい！（白真白）

「……あれ？」
　真白が目を覚ますと、そこは、ふかふかのベッドの上だった。
　もう、そのふかふかレベルったら尋常じゃない。
　あまりに気持ち良さに抗うこと敵わず、真白が再びまどろみかけた、その時。
　バターン！　と、部屋の扉が勢い良く開いた。
　驚いて、がばっと身を起こす真白。
「神子様のお目覚めじゃー！」
　最初に部屋にとび込んできたのはやたら元気いっぱいの小さなおじいさんだった。続いて、
「ウドゥ。いかに我が国が誇る預言者とは言え、その騒ぎようは看過できません」
　と、褐色の肌に銀糸の髪のすらりと背の高いクール系美女が部屋の戸を潜る。
　おじいさん――預言者ウドゥを嗜めた美女は、目をぱちくりさせている真白の元へと歩み寄ると、
「真白様、お騒がせしてしまい申し訳ありません。どうか、ご容赦を」
　と、静かに跪いて真白の手を取り、柔らかく微笑んだ。
　先ほどまでのクールな表情が嘘みたいに、彼女が真白に向ける笑みは蕩けるように優しい。
「えっと……」
「ああ、失礼いたしました。まだ、記憶が混濁してらっしゃるのですね」
「先の儀式から、まだ間もないからのぅ。仕方なかろう、ノーヴァや」
　美女――ノーヴァが言い、それにウドゥも頷く。
（成る程、そういう設定なんだね。それにしても、少しは予習してきたらよかったかな？）
　折角だから知らない世界を冒険したい！　と、睦（むつ）の話を聞いた折に思った真白。
　故に彼女は、未読のファンタジー小説の表紙絵の世界にダイブしたのだった。
　適当にそれっぽい本を選んだので、中身は一切確認していない。
「ねえ、ノーヴァさん」
「？　何でしょうか、真白様」
「私、この世界を冒険してみたいんだけど……」
「冒険！？」
　ウドゥが横から、声を跳ねさせる。
「いけませんぞ、神子様！　邪神の力を抑えられるのは、この世にただひとり神子様だけ！」
「え？　そういう感じなの？」
「この件に関しては、ウドゥの言う通りです。真白様に危険が及ぶようなことはあってはなりません」
「ええー……」
　そんなこんなで、真白は品良くも豪奢な部屋の中で、暇な時間を過ごす羽目になったのだった。

「あー、失敗したなー」
　窓の外は、もうとっぷりと暮れている。
　供された食事は驚くほど美味しく、お風呂もめちゃくちゃ気持ち良かった。
（だけど、私は冒険がしたかったんだよね）
　このままタイムオーバーで元の世界に帰されるのかな……とため息を吐いたところで、
　――ギィ……。
　部屋の扉が、今度はとても密やかに開いた。
　そっと部屋に足を踏み入れたのは、ノーヴァだ。
「ノーヴァさん？　どうしたの？」
「真白様。ウドゥ達には内緒で、少し、外に出てみませんか？」
「え？」
「魔物のいる壁の外にはお連れできませんが、町を見て回るくらいでしたら偶には。ね？」
　悪戯っぽく笑うノーヴァ。
　真白に勿論否はなく、２人は連れ立って、こっそりと町へと繰り出した。

「ノーヴァさん、これは何？」
「星の欠片から作ったお守りですね」
「あっ、あっちにはアイスクリームの屋台があるよ！」
「真白様、よくご存じですね。最近流行りの食べ物のようです」
　夜の町は、色とりどりの幻想的な明かりにふうわりと彩られていた。
　その中を、真白は踊るような足取りで歩き、ノーヴァもそれに続く。
「へえ……寝子島で食べるのと、同じ味なのかな……？」
「？　よくわかりませんが、食べてみますか？」
「うん！　ノーヴァさんも一緒に食べようよ！」
　ぱちぱち弾ける星屑トッピングに、月明かりのリボンを混ぜ込んだもの……等々。
　異世界の風変わりなアイスクリームは、真白の胸をわくわくと華やがせた。
「うーん。どれにしようか迷っちゃうよ」
「でしたら真白様、私と分けっこをしませんか？」
「わ、ありがとう！」
　そうして２人で、夜の甘味を口に楽しむ。