dive into …… ～いざ、絵の中の世界へ！～｜リアクション

dive into …… ～いざ、絵の中の世界へ！～

★ねずみの国へようこそ！（アイオ・キャンドライト）

　絵の中の世界へとダイブしたアイオは、気が付くと暗い暗い洞窟の中にいた。
　白猫の耳を澄ませば、がさがさ、ごそごそ、と、薄気味悪い音も聞こえる。

「どこですの、ここはー！？」
　何せアイオ、睦（むつ）に絵のチョイスを任せてしまったのだ。
　なので、自分がダイブした絵の内容を、いまいちよくわかっていない。
（ぐ、具合のいい絵を星幽塔に探しに戻るのは時間がかかると思ったのですが、失敗しましたかしら……？）
　お気に入りの絵を選びました！　と言った睦の、満面の笑みを思い出す。
（あの笑顔を信じたいですが……）
　と、暗闇の中でうむむと考え込んでいたところに、
「わ、わ、お客様でちゅ？」
　ひょこり、暗がりから、二足歩行のねずみ（しかも洋服を着ている！）が顔を出した。
　顔立ちやらは、ペットショップで会えるような、キュートなねずみさんのそれだ。
「ええと……あなたは？」
「僕は、この地下の国のねずみでちゅ。お客様をご案内するお仕事をしていまちゅ」
「地下の国……成る程、ただの洞窟じゃなかったんですわね」
「ここは国の入口なので殺風景でちゅが、もう少し行けば、賑わっていまちゅよ！」
　そちらでおもてなしいたしまちゅ！　とぺこりとするねずみのあとに続き、
（……何だかちょっと、わくわくしてきましたわ！）
　なんて胸をふわふわと弾ませながら、アイオは洞窟の奥に進んでいった。

「まあ、まあ！　ありがとうございますわ！」
　賑やかな地下の国のあちこちでお客様としてのもてなしを受けて、アイオは、青の双眸を煌めかせた。
　ねずみ達は、皆、穏やかで友好的だ。
「お客様、どうぞでちゅ！」
　と、彼らに勧められたチーズを乗せたパンを頬張れば、その美味しさに息が漏れた。
「むむ！　このシンプルさでこの味、中々ありませんわ！」
「こっちもぜひ！　でちゅ！」
「この果物のジュースも美味しいですわね。喉が潤いますわ」
「お口に合って良かったでちゅ！　どれも皆で頑張って作っているので、とっても嬉しいでちゅ！」
　そのあとも、あれもこれもと、絶品と言って差支えのない食事を勧められるアイオ。
　国を案内してもらううちに、何とも幸せな感じに、お腹がいっぱいになった。
　あたたかな歓待を受けたアイオは、ふむ、と思案する。
（何か、お礼がしたいですわね……あ、そうですわ！）
　かんばせを輝かせ、手を打つアイオ。
　ちゅ？　と首を傾げるねずみ達へと、アイオは明るい声で尋ねた。
「あの、歌って、お好きです？」
「！　大好きでちゅ！」
「舞台だってあるんでちゅよ！　でも、今は歌い手がいなくて……」
「お歌、久しぶりに聞きたいでちゅねぇ」
　ねずみ達が口々に言うのに、
「ならここは、やっぱりアイオの出番ですわね！」
　と、アイオは瞳を、とびきりの宝石のようにきらりと光らせた。

　地下洞窟内の舞台に、アイオの歌声が滑らかに響き渡る。
　ねずみ達は皆、アイオの歌に、うっとりと聴き入っていた。
　歌声を紡ぎながら、アイオは思う。
（このステージ、歌声がこんなに気持ちよく響くなんて、素晴らしいですわ！）
　『歌』を完璧に生かせるよう、舞台は、緻密に設計されているようだった。それに、
（こんなに沢山のお客さんが、皆、アイオの歌を楽しんでくれているなんて……！）
　歌に合わせて身体を揺らしているねずみがいる。
　アイオが歌う『ネコジマ』で覚えた歌を、真似してごく小さく口ずさむねずみがいる。
　そしてどのねずみも、皆、円らな瞳をきらきらとさせていた。
　歌い終わる。息が少し上がっている。けれど、
「もう一曲行きますわよー！」
　と、アイオは、小さな観客達に向かって叫んだ。
　わああ！　とあちこちから歓声が上がる。
（さあ、まだまだステージはこれからですわ！）
　大きく息を吸い込み、アイオは、また新しいメロディを地下の国に生み出していった。

　そして、これはアイオ自身も知らない後日談になるけれど。
　絵の中のねずみ達の国で、青い瞳の歌姫の話は、永く永く語り継がれ続けたのだった。

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