【演劇祭】ＮＫ３-寝子高３年連合-　海賊奇譚｜リアクション

【演劇祭】ＮＫ３-寝子高３年連合-　海賊奇譚

★海賊奇譚（水と炎２～濁流の如く、烈火の如く）

　炎神の刀と、水神の刀。
　苛烈な炎と轟と唸る水が、嵐のように暴れ回ります。
「あぁ、やっぱりコイツと闘うのは楽しいなぁ」
「……随分と余裕ね」
「余裕？　そんなもん、あってもなくてもいいだろ？」
　蛍の刺すような言葉に、小さく首を傾げる水簾。
「ただ、楽しいんだよ、俺は。普通の奴らと違って読めないし、刀も一緒になって襲いかかってきやがる」
　だからこそ欲しいし、だからこそ戦いたい。
　水簾の双眸が、ギラリとしました。
「たまんねぇなぁ……たまらないんだよ……。だから、もっと激しくやりあおうぜ！」

◇

　水簾と蛍――桐野正也と森篠琳子が声を重ねる曲が始まる。
　団員役の宇佐見望月は、内心に、「うへえ」と呟いた。
（台詞はOK、動きもついてける、ワイヤーのタイミングも出せる）
　が、しかし。
（ダンスは、ついてくのがやっとだからぁあ！！）
　そう、この曲、団員達はバックダンサーとして、結構激しく踊るのである。
　同じく団員役を務めることになった北里雅樹も、既に、かなりへろへろだ。
　急ぎ、団員役用の和服に着替え、刀を手に舞台上にとび出したはいいが、
（実は、あんまり体力ないんだよな……）
　前半は大道具を担当していたこともあって、割と、限界が近かった。
　けれど、決して泣き言は零さない。
（とにかく、自分の仕事に専念だ。やりきってみせるよ、ああ）

◇

　水簾は、両海賊団の団員達をも翻弄するほどの勢いで、刀を振るい、歌声を張り上げます。

俺の心は　濁流の如く
暴れ水は　全てを飲み込む
正面切っての大勝負　激しく　命燃やそうぜ

　対する蛍も、怯むことはありません。
　一見、猪突猛進でありながら、蛍の戦術眼は確かなもの。
　水簾の力強い刀をするりといなし、己の炎を走らせます。

私の心は　烈火の如く
気高き炎は　全てを燃やす
秘めたる熱を刃に乗せ　激しく　命燃やしましょう

　２人の戦いは、まだまだ続きます。

猛者と刃交えるほどに　湧き上がる　生きている実感
濁流の如く　烈火の如く
今　命の灯り　燈せ

◇

　歌いながら、刀を振るい、言葉通りの大暴れをしながら。
　琳子は、ふと、気付く。
（出演を誘われたときについ応じたのは、私の中の戸惑いを、どうにかしたかったからかもしれない）
　高校生活の終わりが、近づいている。
　就職だってもう決まっていた。
　卒業後は、寝子島信用金庫に務めるのだ。
（私の学生生活最後のカウントダウンは、もう始まってる。半年後には、私は社会人になる）
　けれど琳子には、まだ、その実感がない。
　なさ過ぎて、戸惑っている。
（『蛍』を演じ切ったら、何か、変わるのかしら）
　『蛍』という少女の等身大の姿を歌に乗せようと、琳子は、声を伸びやかに響かせた。