【演劇祭】ＮＫ３-寝子高３年連合-　海賊奇譚｜リアクション

【演劇祭】ＮＫ３-寝子高３年連合-　海賊奇譚

★海賊奇譚～準備・練習編（１）～

　演劇の花形と言えば役者かもしれないが、裏方の力なしに、劇は形を成さない。
　志波武道の声掛けで立ち上がった、劇団「ＮＫ３-寝子高３年連合-」。
　その裏方を務める宇佐見望月、呉井陽太、北里雅樹は、演劇の舞台となる劇場の下見に訪れていた。
　その劇場とは、星ヶ丘に位置する『STARHILL Theater（スターヒル・シアター）』だ。
「うはぁーっ、すっごい舞台だねぃ」
「星ヶ丘の多目的劇場だもんな。オペラや歌舞伎、コンサートに、映画の上映までできるらしい」
　陽太が声を華やがせ、パンフレットを手に、雅樹がゆるりと言う。
　マイペースな中に頼もしさを滲ませる性質の陽太だが、
「早速、どんな舞台装置があるのか確認してもいいかな？」
　なんて、今日はちょっぴりはしゃぎ気味、かもしれない。
　その様子に、雅樹は優しい苦笑いを零す。
「呉井、楽しそうだな」
「ん？　うん、楽しいよぅ。皆で一つの舞台を作り上げるのって、良い思い出になるもんねぃ。それに……、」
「それに？」
「お話的に、派手な演出、音楽、効果音をいっぱい使いたいし」
　陽太が、下見を楽しみながらも、早くも具体的にどう動くべきかを見据えていると知って、
「……呉井が同じ裏方仲間で、頼もしいよ」
　と、雅樹は淡く微笑んだ。
「なあ、宇佐見」
　と、同意を求めて振り返った雅樹が目にしたのは、
「んあー、ここが舞台リハだろ？　だとすると……」
　という具合で、難しい顔をしてノートと睨めっこをしている、望月の姿。
　ノートには、劇団員のスケジュールや大道具・小道具などの進行具合がみっちり書き込まれている。
「……おーい、宇佐見？」
「……んあ？　あ、そういや、雅樹ちゃん！　雅樹ちゃん担当の大道具の進捗って、どーよ？」
　島の書割とか数も多いんだろ？　と真面目に案じる調子で問われて、
「ああ、うん。そっちは任せてもらって大丈夫。もう着手してるし、適宜、ニャインで写真も送るし」
　と、大道具の多くの箇所を担当する雅樹の方も、つられて真面目な調子で頷いた。
「マジ？　ニャイン助かるわー。これは、俺様もガッツリ頑張らねーとマッズイな！」
　劇団員のスケジュールなどを管理しつつ、大道具の作成（主に、船の担当だ）にも当たっている望月。
　その望月も、元気いっぱい、気合も十分なことを改めて確かめた雅樹は、首の後ろを軽く掻き、
「……俺も、実際の舞台がどんな感じか、見てくるか」
　と零して、舞台上へと向かった。
（ここなら、そうだな。書割はもうちょっと、あそこをああして……）
　などと、舞台上を歩き回りながら思案する雅樹。
　その時、客席の方から、望月のスマートフォンの着信音が響いた。
「あ、衣装屋のおっちゃん」
　望月が、明るい声で電話に出る。
　けれどその声音は、表情と共に、すぐに申し訳なさそうに曇った。
「……すんません、無理いっちゃって。ハイ……え？　レンタル落ちの良いのあるんすか？」
　やった、ありがとうございます！　と再び弾む、望月の声。
「お礼は……棚卸しの手伝い……ハイ、頑張らせてもらいます！」
　失礼しまっす！　と電話の向こうの相手に頭を下げ、スマートフォンを仕舞い、
「うっし、衣装調達！」
　と、望月、全力のガッツポーズ！
「わ、衣装、もう見つかったのん？」
　あちこちを確認して回っていた陽太が、望月の声を聞きつけて、ひょこりと顔を出す。
「もう、バッチシ！　頼れるものは参道商店街ネットワークだな～♪」
「じゃ、適当なところで、稽古場に戻るか」
　雅樹の言葉に、陽太も望月も、迷いなく頷きを返した。

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