【演劇祭】ＮＫ３-寝子高３年連合-　海賊奇譚｜リアクション

【演劇祭】ＮＫ３-寝子高３年連合-　海賊奇譚

★海賊奇譚（『東雲海賊団』、参る！）

　立派な造りの船の上。
　『神宿る刀』の内の一振りたる水神の刀の使い手・水簾（すいれん）は、
「伝説の刀鍛冶が残した刀の最後の一振り……どんな刀なんだろうな」
　と、水平線の向こうを見遣って零します。
　その眼差しは力強く、瞳は煌々と輝きを帯び、口元には、不敵な笑みが浮かんでいました。
「今から楽しみだ。なぁ、頭領？」
　水簾の視線が、『東雲海賊団』の頭領にして風神の刀の使い手・真艫（まとも）へと移ります。
　真艫は、水簾の言葉に応じる前に、些か大袈裟に肩を竦めてみせました。
「水簾。その“楽しみ”の中に、おまえ、“奴ら”との戦いを含めてないか？」
「さぁ、どうだろうな？　だがまぁ、退屈なのは御免だ。頭領、何なら今から、俺と決闘を……」
「ああ、そんなことより、水簾」
「あ？」
「見えてきたぜ――雷雲が」
　――ピシャン！　ゴロゴロゴロ……。
　『神宿る刀』の最後の一振りは、雷神の刀。
　刀を懐に宿した、常に雷雲立ち込める孤島へと、船は真っ直ぐに進んでいきます。
「あぁ、早く闘いたいぜ！」
　身の内に滾る熱を抑えかねたように、水簾が声を張りました。

◇

「２曲目、だね。今度も、上手くやってみせるよぅ」
　己に言い聞かせるように呟いて、呉井陽太はスポットライトで水簾役の桐野正也を照らす。
　曲が入るタイミングは、今回もパーフェクトだ。
　正也の雄々しい舞は、陽太の心をも湧き立たせた。

◇

　夏の雨。或いは、洪水。
　そんな、轟轟と暴れる水の如くに、水簾の舞も、歌声も、豪快なものでした。

見ろ　夜明けの空を　茜色の空を
新しい世界を生み出す　東雲に出づる
俺達の名前を　よく覚えておけ

　その歌声は、海に生まれる大渦のようでもありました。
　聞いた者の心を捕らえ、離さない。
　そんな水簾の歌に、真艫も引けを取りません。

見ろ　夜明けの空を　茜色の空を
新しい世界を生み出す　東雲に出づる
全てを掴むのは　俺達　『東雲海賊団』

　真艫の歌声と舞は、捉えどころのない風のよう。
　何もかもを翻弄するような歌と踊りは、頭領の真艫らしい、人を惹きつけるものです。
　そして、ぶつかり合い、混ざり合う、水と風。

刀なんて　飾るより　使ってなんぼ　そうだろ？
集めたい　全ての刀を　この手に掴んで　離さない
闘って　勝ち取ってやるぜ　義には義を　無法には無法を
本心は　掴ませない　風のように　変幻自在

　ゆったりと、２人は刀を構えます。
　水簾は挑発的に、真艫はすらりとスマートに。

見ろ　夜明けの空を　茜色の空を
新しい世界を生み出す　東雲に出づる
俺達の名前を　よく覚えておけ
全てを掴むのは　俺達　『東雲海賊団』

◇

　照明が落ち、水簾役の正也と真艫役の高梨煉は、さっと袖へとはける。
　次の出番のために控えていた志波武道が、２人に、にっと笑みを向けた。
「きりのん、れんちゃん、かっこよかったぜぃ」
「ありがとう、ブドー」
「でも、俺の真骨頂はここからだぜ？」
　煉がふっと表情を緩め、正也は、身を走る緊張を隠して、口の端を上げる。
「……次は、２つの海賊団の邂逅。それから、孤島のシーンね」
　森篠琳子の呟きに、武道、煉、正也は、真剣な面持ちで頷いた。

　一方、余韻を残すようにして照明を落とした陽太は、ほうと息を吐く。
　準備の段階から、音響や映像にも深く関わってきた陽太。故に、
（雷の音のタイミングも、雷雲の映像を映すタイミングも、曲のあれこれも上手くいったねぃ）
　と、ピリリとした緊張は感じながらも、仲間達の健闘が頼もしく、また誇らしくもあった。
　だが、感慨に耽るにはまだ早い。
　照明係を一旦仲間に交代してもらって、陽太は、舞台上に剣呑な孤島の姿を現すべく、急ぐ。
　同じく裏方を担当する北里雅樹も、素早く、闇に沈んだ舞台上へと向かった。
（その書割は、手前に置いてくれ。そっちのやつは奥の方へ）
　と、大道具のあれこれを完璧に把握している雅樹が、目線と身振り手振りで指示を出す。
（場面転換がスムーズに進むようにしないと、締まりがないからな）
　陽太と雅樹は、流れるような連携で、４人の役者が揃い踏みする舞台を整えた。