【演劇祭】Ｅｉｄ　Ｓｅｇｅｎ　そこに在る、対の少女の物語｜リアクション

【演劇祭】Ｅｉｄ　Ｓｅｇｅｎ　そこに在る、対の少女の物語

【届かない二人の接点】

「夏朝さん、ＯＫです！」
「うん……これは、難しかった……！」

　恵御納一家が寝子島に揃い、久隆が相談し合っていたスケジュールに沿って、さっそく星ヶ丘の『STARHILL Theater』にて舞台合わせが始まった。
　今は舞台袖では理沙が見守る中、舞台では夏朝の重要な役割である『シルエット』の撮影が行われているところだ。

　舞台の序盤は、主人公の髪の長い少女が、自分の中にもう一人いる影──『対等な自分』との、届かない悲しみを伝える部分。
　物語の殆どは、どちらか片方しか出てこず、その為登場人物は夏朝がずっと一人二役でこなす事となる。
　影の部分は、舞台演出のシルエットとして別途用意をすることになっており、今までの撮影も難航を極めたが、夏朝は何とか少女の分をやり遂げた。
　しかし、今度は『もう一人の対』の分が残っている──

「それじゃあ、休憩に行ってきます」
　ウィッグをつけていた夏朝が、それを外して短い髪を露わにする。
　そして、そのまま休憩室に戻ると、夏朝はそのまま勢い良くテーブルへと突っ伏した。
「夏夜ちゃん、あと任せた……っ」
　その呟きの後に、ほんの少しの間から軽い寝息の音が聞こえてくる。
　しかし、それも数回繰り返された時点でぴたりと止まった。
　夏朝がおもむろに身体を起こした──正確には、夏朝のもう一人の自分である『夏夜』が。

「僕のシルエット撮影、か……」
　じっと手を見た。向こうからは届くが、こちらの想いは夏朝には届かない、双方向ではない意思疎通。
　そんな夏夜の僅かな侘しさが身にしみる状況で、ふとドアがノックされ、そこに理沙が姿を現した。
「夏朝ちゃ……うん、夏夜ちゃんね。丁度良かったわ～！『対』の衣装を合わせておきたかったの！」
　即座に自分が夏朝ではない事に気づいた理沙に、夏夜は無言ながらに驚きが隠せない。
　しかし、それが当たり前のように理沙が微笑んでいる。それは夏夜にはまだ馴染みの薄い感覚だ。
(……いつか、馴染める日が、来るのだろうか)
「夏夜ちゃんも、私と旦那様の娘なんだから。
　──遠慮しちゃダメよ？」
　それを見透かしたように、理沙が優しく笑い掛けた。
　それには夏夜もほんの少しばつが悪く、それでも心の奥がほんのりと嬉しくて。俯きながらも自然に微笑が浮かんでいた。

◆　◆　◆
「～～♪　～～～♪」
　衣装を渡し夏夜と別れた理沙は、上機嫌で舞台袖に戻って来た。
　舞台袖の薄暗い中、役中の主人公の『弟』として、布で包んだぬいぐるみが置かれているのが目に入る。
　今は、小道具でしかまかなえない存在。しかし、それでもこの『弟』には、あまりにも深い意味がある。
（冬夜君……あなたも、見ているかしら？）
　──とある悲劇によって、この場にいる事の叶わなかった、理沙達の息子。夏朝の弟──
　切ない想いを隠しながら。理沙はそっとそのぬいぐるみを抱き締めた。
「理沙さん、久隆さん。照明の位置確認するんで、舞台の方にお願いします！」
「は～い！」

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