快眠枕『ねこたん！』｜リアクション

快眠枕『ねこたん！』

●研究者になった寝子高生の困難

　椎井莉鳥が家に帰ると、彼女宛に小包が届いていた。
　小包を開けると中には快眠枕『ねこたん！』と、モニターに選ばれましたと内容の手紙が。
「モニターに応募した覚えないんだけど」
　ランダムに選ばれたのね、と割り切り『ねこたん！』を手にする。
　さっそく使ってみようと『ねこたん！』を頭に載せたり、顔をうずめたり。
「気持ちいいわね、これ」
　もちもちな感触を楽しでいるうちに、莉鳥は眠ってしまった。

　10年後。27歳の莉鳥は木天蓼大学薬学部の大学院生に。
　どういうこと？　と思ったが、夢の中では、彼女は研究者の卵になっていた。
　多くの実験器具に取扱い注意の薬品。薬品データをまとめたと思われる書類の山。データ入力用のパソコン。
　莉鳥が見たのは、本格的な研究器具の数々だった。
　そういえば……と、ここにいる経緯を思い出す。
「今日は研究室に来て、これまでの実験で得られたデータ類の整理することになっていたわね」
　研究室にあるデータ類の書類を整理し、これらをまとめて論文を書かなきゃ、と頭の中で手順を思い出す。
　データをまとめて論文を書かないといけないし、次の実験の際には比較用に必要なので未整理のまま放置するわけにもいかない。
　それにまして、今日は、実験の中間報告がある。
「中間報告は夕方だったわね。教授が出張から帰ってきてすぐに行うことになっているんだっけ」
　論文作成の前に、データ類を整理することに。
　量が膨大なので中間報告のまとめにとりかかる前に終わるかどうか心配だったが、どうにか終わった。
「中間報告のまとめ、早めに終わらせないと教授が来てしまうわ」
　データ類の整理した書類をまとめ終えると、大急ぎで論文作成にとりかかる。
「……集中しないと」
　データをまとめる時に使ったパソコンで仕事をしていたら、変換ミスで変な文章になっていた。
　変換ミスを修正し、入力し終えたところでEnterキーを押したら……。
「ちょ、ちょっと、どうなっているの！？」
　パソコンがフリーズし、使い物にならなくなった。
「嘘……？　教授が戻ってくるまであと１時間よ？」
　焦って色々いじってみたが、どうにもならない。
　パソコンはまったく動かなくなってしまった。
　フリーズしたままタイムリミットになり、涙目の莉鳥自身もフリーズ。

　そこで終了、となれば良いのだが、無情にも10年後の自分、再び。
　中間報告のまとめもやり直し、というところから始まった。　
（件の変換ミスさえなければ……）
　同じ間違いをすると泣く羽目になるので慎重に打ち込んだ、今度は別の理由でフリーズ。
　変換ミスはしなかったが、中間報告に間に合いそうというところでこうなった。
「また……？」
　フリーズをどうにかしようとあれこれやってみたが駄目だった。
　またやり直さないと……と泣きながらループ。

　今度こそフリーズしないように、と慎重に作成を。
（や、やったわ……）
　３度目の正直、といったところだろうか。
　ミスもなく、パソコンもフリーズなく、論文はどうにか教授に中間報告できるように仕上がった。
　なんとか間に合った……と疲れ切った莉鳥は、机に突っ伏した状態で眠ってしまった。

　目が覚めると自室にいて、年齢も現在に戻っていた。
「何なのよ、一体……現実にああなったら怖いわ……」
　目覚めた後の第一声はこれだった。
　将来、本当に学院生になった時にこんな出来事が起きて欲しくないわとぞっとしたが、夢だとわかると安心し気分爽快に。
　ループから抜け出すことに成功した時、莉鳥が『ねこたん！』で眠ってから３日が過ぎていた。

このページにイラストを設定する