快眠枕『ねこたん！』｜リアクション

快眠枕『ねこたん！』

●大学院生になった寝子高生の困難
　
　猫鳴館で生活している北里雅樹のところにも、快眠枕『ねこたん！』が届いた。
「こんなものに応募した覚え、ないんだが」
　モニターに選ばれたので使い心地のレポートを書かなければならないらしいが、タダでくれるみたいだし使ってみるか、ということに。
「このもちもちした触感、本物の猫みたいだ。使い心地良さそうだ」
　どんな夢が見られるかな？　と興味津々でさっそく届いたその日の夜から使った。
　顔をうずめているうちに瞼が重くなり、ウトウトして眠ってしまった。

　雅樹が目覚めると、そこは夏はじめじめ、冬は冷凍庫のような寒くて暗い人外魔境感満載な空間の猫鳴館ではなかった。
　もう何年も帰っていない自宅の自室であった。
「どうなってんだ？」
　枕元に置いてあるスマホの時計を見て「へ？」となった。
「どういうことだ！？」
　日付は10年後になっていた。
　でもって、なぜか自分も10年後の姿になっていることに気づき、現在の状況がわかった。
　10年後の彼は京都大学で情報科学を専攻している博士課程在籍中の大学院生で、今日は寝子島にある木天蓼大学寝子島キャンパスで学会が行われる。
「今日は研究発表の日か。おおっ、忘れてた」
　ヘアセットしたり、ネクタイを締め身支度を整えたり、学会に必要なものを揃えたり。
　家を出る準備が整ったのを確認してから自宅を出る。
　折り合いが悪い父親と顔を合わせないよう、抜き足差し足忍び足でそっと家を出た。

「時間的には、まだ間に合うだろう」
　そう思い、何年振りかの寝子島を歩いていたら、いきなり足元に何かがぶつかってきた。
　何だ？　と思いぶつかってきたものを見ると、５歳くらいの女の子だった。
　泣きながら雅樹の足にしがみついているので迷子らしい。
「まいったな……交番へ行くか」
　放っておくわけにもいかない。かといって、この子の母親を探している時間もない。
　交番に連れて行ったほうがいいだろうと思い、雅樹は泣いている女の子の頭を撫でて「行こう」と宥めた。
　その間、事情を知らない人々の視線が痛い。奥様方のヒソヒソ話も聞こえてきそうな雰囲気だ。
　ママーと泣いている女の子と歩いているので、幼女を連れ去る不審者だと思われているようだ。
（って、なんで俺が不審者扱いされなきゃならんのだ？　俺はロリコンじゃないぞ！！）
　周囲の痛い視線を感じたところで、夢はループ。

　人外魔境感満載な空間の猫鳴館でなく、住み慣れた我が家にある自室での目覚めは快適だった。
　目覚めるなりスマホの時計を見て、再び「へ？」となる。
「また10年後？　どういうことだ！？」
　でもって、再び10年後の姿になっていることに気づき現在の状況を再確認。
「ということは……またあんな思いをするのか？」
　学会に向かう途中のハプニング再び……と思うと気分が重い。

　父親と顔を合わせないようそっと自宅を出て、寝子島散策をするのは以前の夢と変わらず。
　泣いている迷子と思しき５歳くらいの女の子にぶつかったのも変わらず。
　交番に連れて行く途中、事情を知らない人々の痛い視線とヒソヒソ話も変わらず。
（今度は不審者扱いされないよう、この子の親を探す！！）
　学会に遅れても構わん！　と開き直り、女の子と一緒に寝子島を歩き回る。
　どのくらい歩いただろうか。母親らしき女性に女の子が駆け寄った。
「あ、ママだ！」
　母親が見つかって良かったと安心したところで雅樹の夢は終了。

「大学院生になったのはいいとして、不審者とかロリコンだと思われるのはなあ……」
　重たい気分に反し、身体が軽かった雅樹は丸1日眠っていた。

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