快眠枕『ねこたん！』｜リアクション

快眠枕『ねこたん！』

●声優志望少女の困難

　夏は涼しく、冬はあったかぽかぽか。
　快眠を提供してくれる魔法の快眠枕『ねこたん！』のモニターに選ばれたことに関してはランダムね、と落合まゆらは納得。
「魔法の枕ってのがいいわ」
　もちもちな感触を確かめながら、まゆらは良い夢が見ることができるのかしらと眠りにつく。

　翌朝。枕を抱きしめながら眠っていたまゆらは、目覚まし時計の音で目が覚めた。
　目覚ましを止め、ボーッとした頭で「今日は大作アニメの収録日だったわね……」とスケジュールを確認。
　10年後のまゆらはリブート版『魔法少女ミスティックアリア』の主人公ミスティを演じることで、長年の夢だった売れっ子声優になることができた。
　ミスティはアニメキャラクターだが、引っ込み思案だったまゆらの人生に大きな衝撃を与え、声優を志すきっかけとなった人物だ。
　ふわりとしたスカート、丸みを帯びた羽飾りつきの靴。
　愛と正義、自由を象徴する魔法のステッキで敵と戦う魔法少女は、まゆらの憧れだった。
　再起動とはいえ、憧れのキャラクターを演じられたことはとても嬉しかった。
　ミスティックアリア続編製作が決まったことで、まゆらは、ますます多忙な日々を過ごしている。

　今日は劇場版の大作アニメ収録初日。
　主役に抜擢されたので、キャスティング決定からプレッシャーが半端ない。
（大作アニメの主役……き、緊張するわ……）
　この日のため、万全に体調その他のコンディションを整え、都内にある自宅のワンルームマンションを出た。
（この仕事でコケたら、あたしの声優生命は終わりだわ）
　まゆらが主役に抜擢されたのは、原作者直々の希望とのこと。
　原作者に抜擢されるのはすごく光栄なことだった。

　スタジオ入りし、収録時間まで台本のチェックを入れようとバッグから台本を取り出したら……。
「え……！？」
　入っていたのは大作アニメの台本ではなく、収録済みの別のアニメの台本だった。
（スタジオに予備の台本はあるかもしれないけど、あたしの台本には、いろいろ書き込みがしてあるから……）
　役になりきれるよう、まゆらの台本には赤ペンで書いた細かいト書きがビッシリ。
　あの台本じゃないと！　とパニックに。
「落合さん、どうしたんですか？」
「落ち着いてください！」
　スタッフ達に宥められるが、パニックはおさまらない。
　台本を間違えて持って来ただけでなく、自分を抜擢した原作者が見学に来ていたので余計パニックに。
　もう駄目！　と思った瞬間、夢は一旦終了、と思われたが……。

　再び、目覚まし時計の音で目が覚めた。
　目覚ましを止め、まゆらはボーッとした頭で「今日は大作アニメの収録日だったわね……」と今日のスケジュールを確認。
　このシチュエーション、前もあったような……と寝ぼけ眼で思い出す。
　
　その後の展開は以前同様、別の台本を持ってきてというハプニングが。
　原作者が見学に来ていたのも、以前と変わらず。
　私はプロよ！　と意気込みスタッフに事情を話し、予備の台本を用意してもらう。
　女は度胸、と挑んだ収録は、細かく書いたト書きを思い出しつつ、アドリブで乗り切りった。
　ＮＧなし、原作者大喜びの収録が終わり、大仕事をやり遂げたと一安心。
「……なんとか無事に収録が終わったわ……」
　どっと疲れが出て脱力したまゆらは、休憩室のソファに倒れんだ。
　人生ここ一番の大勝負でコケてパニックになってしまったが、どうにか困難を乗り越えることができた。

「危ない夢だったわ……」
　何とか乗り切れてよかったと気分爽快で目覚めたまゆらは、丸１日眠っていた。

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