寝子島オータムグルメフェス｜リアクション

寝子島オータムグルメフェス

「グルメフェスだと？　行きてえ！」

　響蒼留人は街で目にした寝子島オータムグルメフェスの広告に目を輝かせていた。
　しかし、次の瞬間、蒼留人はとある事実を思い出す。即ちは今の自らに十分な軍資金がないという事実を。

「困ったな……。わざわざ行っておいて、指をくわえて安いものを探す羽目になるってのはなぁ」

　せっかくの旨いものを眺めてるだけなんてもったいない。そう思いはすれど、かと言ってどこかにお金が落ちているわけもなく。
　お金を得るならば働くしかないのだが、と考えたところで、蒼留人はそうだ、バイトをすれば良いんだ！　と、考えついた。
　寝子島オータムグルメフェスに出店するお店は多いが、普段の業務自体を休んでしまう事はしない筈。となると、このイベント用に臨時のバイトを募集しているところも多いのではないかと蒼留人は思ったのだ。
　早速、調べてみたところやはり臨時の募集を出しているのを見つける事が出来た。

「さて、何の店がいいかな……。さすがに賄いはないよな？　イギリス系やカニはこないだ食ったから、それ以外が良いかなぁ」

　呟きながらもどの店にするかのピックアップを進めていく蒼留人。
　そうして悩んだ結果、選ばれたのは和食系統のお店であった。

「よし、まずは電話してみるか！」

「いらっしゃいませ！」

　お店へとやって来たお客さんに対して元気良く挨拶する蒼留人。
　あの後、電話をかけた店にバイトとして雇って貰えた蒼留人は、慣れないながらも精一杯バイトで汗を流していた。

　接客こそ慣れていないものの剣道部に所属しているだけあって体力は人並み以上にある蒼留人は、とても忙しい現場である寝子島オータムグルメフェスではとても頼りにされていたりする。
　何せ普段の店とはまた違うイベントの中での出店だ。お客さんの流れも時間で途切れたりはせずに、常に次から次へと来るような状況なのだ。体力が重要なのは明らかであった。

「ありがとうございました！」

　蒼留人は商品を受け取って去って行くお客さんの背中に大きな声で挨拶をする。その声はともすれば働いている店の中でも一番出ているかもしれない。
　普段から働き慣れている人達は流石にちゃんとした声が出ているが、蒼留人と同じく臨時で雇われたと思わしき人の中には疲労の色が隠しきれてない人もいた。
　だが、それでも体力がまだまだ有り余っている蒼留人が積極的に動く事で、彼等のフォローも何とか出来ていたりするのだ。

　忙しさに追われて業務を熟していけば、その内に仕事にも慣れていく。それは蒼留人とて変わらない。
　そうして慣れて来たところで、ふと視線を遠くに向ければそこには明らかに蒼留人にとって見覚えのある人物がいた。剣道部顧問の島岡雪乃だ。
　雪乃を見つけた際、最初に目に付いたのが胸だという事は秘密である。

「島岡先生？！」
「えっ。あ、響君じゃないですか～。こんなところで何を？」
「俺はここでバイトをしてるんですよ」

　雪乃の問いに答えながらも蒼留人は驚いていた。まさか雪乃がこんなところに来るとは思っていなかったのだ。

「よかったらぜひ食べてってください。あ、先生のお勧めの食べ物って何かあります？　もしあるなら後で食べに行きたいんですけど」
「そうですねぇ。先ほど食べた紅葉のロールケーキはとても美味しかったですよ」
「ほうほう」

　雪乃からお勧めされたものを心のメモ帳に書き入れる蒼留人。
　この後、休憩時間を使ってそれを食べに行ったのは言うまでもない事であった。
　
　こうしてバイトで大変ながらも、美味しい物を沢山食べれて蒼留人的にはとても大満足なイベントとなったようだ。

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