ずばっと解決！　生徒会疾風伝！｜リアクション

ずばっと解決！　生徒会疾風伝！

◆懊悩する朝、異界の住人

「目安箱だ。なんか入れる？」
「んー、テストで赤点とりたくないとか？」
「勉強しろって言われるだけじゃね？」
「だよね」

　そんな言葉を交わしながら、女生徒たちが目安箱の前を通り過ぎていく。硬質なそれに面白半分で投函する生徒も居れば、本気で悩んでいることを書いて投函する生徒も居る。

「ううん……目安箱……叶えてほしい願い……」

　恵御納夏朝は後者だった。夏朝は紙を前に頭を抱えつつ、自分の片割れが自分と心身ともに分離・共存して寝子高で過ごすところを想像する。二人して猫に囲まれて、猫がごろにゃんと腹を見せたところをもふもふと撫で……そんなところまで考えてから、夏朝は溜息を吐いた。

「……って、これ前半は無……いや、無理じゃなくて僕達が叶えるって信じたいけど難題ー！」

　というか、生徒会の目安箱に書く内容じゃない。そう考えた夏朝は、書きかけのそれをぐしゃぐしゃっと丸めてゴミ箱に捨てた。彼女と同じ思考をする者は多いようで、ゴミ箱の中にはぐしゃぐしゃの紙が山積みになっている。夏朝はうーんと唸りながら、ペンのノックボタンを唇に当てた。

「別の内容考えよう。図書室関連で何か……」

　彼女がぐるぐると思考を巡らせているうちに、どこかからすっと紙が飛んできて目安箱に入っていく。しかし、それに気付く者はいなかった。夏朝はペン先を紙につけたり離したりしていたが、暫く考えても思いつかないので諦める。

「図書室行こう……」

　彼女は図書室に向かってとぼとぼ歩き出した。ところで、どこかから飛んできた紙にはこう書いてあったそうだ。

『僕と大切な別人格が心身ともに分離・共存して、二人で……あるいは皆と一緒に、寝子高で過ごして、猫さん撫でたいもふりたい、です。寝子高内の猫さん達や、たまに校内に来る猫さん達が皆と一緒に（過ごせない都合がある場合でもそれぞれが）幸せに過ごせるといいなぁ。　　えみな・かーさ』

「あ、危なかったですわ……！」

　夏朝が去った後に、物陰からひょっこりと青い影が顔を出す。彼女はアイオ・キャンドライト。深くかぶった帽子の下では猫耳がぴょこぴょこと動いている。アイオは夏朝の背を見送りながら、はっとこう思い至って肩を落とした。

「……話しかけたらお友達が出来たのかも……！？」

　しかし時すでに遅し。夏朝は階段を下りて行った。アイオは目安箱に目を向けると、興味深そうに観察した。

「とにかく、これが目安箱ですわね」

　彼女はペンをとると、

『お友達になってください！　ですわ！』

　と書き始め、すらすらと願いを記していく。そうして最後に、

『1階世界の住民　喜矢武あいお』

　と書いた。そのまま投函しようとしたが、折りたたんだところで少し躊躇する。アイオは折りたたんだばかりのそれを開き直すと名前の後ろに、

『目印は猫耳のキャスケットですわ』

　と書き加えた。

　――こそこそするぐらいなら、いっそ正直に話して友達が出来た方が楽しいですわ。

　こう考えながら、彼女は目安箱に投函する。本当に叶えてくれるのか、くれないのか。アイオは少し不安になりながら、首を振った。

　――でももし怒られたら……その時は制服も手放してすっぱりあきらめましょう。

　ぎゅっと、彼女の白い手がスカートの裾を握る。

このページにイラストを設定する