豪遊！　異世界ショッピングツアー｜リアクション

豪遊！　異世界ショッピングツアー

御巫時子はショッピング横丁を見回して、何度か頷いた。
　ツアーコンダクターだと名乗ったのは恐竜にも似た不思議な生き物。ファンアジー世界のダンジョンにいそうなモンスター系ではあったが、
「よろしくお願いしますね～。わたしはナナです。心配いりませんよ。言葉は私が翻訳致しますから」
「そうですか。安心しました。よろしくお願い致します」
「では、さっそく行きましょうか。まずはー」
　ふと、時子の目の前に見知ったシルエットが横切った。
「……尚輝先生？」
　その人物は名前を呼ばれて振り替える。
「御巫さん？」
　歩み寄ってきたのは寝子島高校の職員、五十嵐尚輝だった。
「こんなところでどうしたんですか？」
「先生こそ……」
「よかったら一緒にお店をまわりませんか？　ショッピングツアーに参加することになりまして」
「ショッピングですか。……そうですね。御巫さんが言うなら」
　時子は目を輝かせた。思いもよらない展開に心を弾ませるのだった。

時子と尚輝先生は町並みを楽しむように歩いていた。
「奥の方は飲食街になってるんですが、この辺りは雑貨中心ですねー」
　ナナの話を聞きながら辺りを見回す二人。
「不思議な光景ですね」
　ぽつりと呟く尚輝先生に時子は頷いた。
「はい、なんだか独特です。あ」
　時子は前方の店先に置かれたテーブルに飾られているだるま落としや竹とんぼへ歩みよった。
「懐かしいです。幼い頃、遊びを教えてもらった覚えがあります。尚輝先生が小さい頃遊んだものはありますか？」
「僕は、これですね」
　竹とんぼのそばに置かれていた駒を指で指した。
「回せるんですか？」
　時子が驚いて聞くと、尚輝先生は肯定した。
「あ、それなら、試してみます？」
　ナナの提案に尚輝先生は頷いた。　
　ナナが丁度出てきた店主に声をかけ、許可をもらうことに成功。
「行きますよ」
　尚輝先生は駒に専用の紐を巻き付けると、地面へ放った。
「！」
　時子は両手を組んだ。勢いよく回る駒は抜群の安定感を誇り、回っていること自体、疑うほどだった。
「凄いです」
「やってみますか？」
　教えてくれるという尚輝先生に甘えてみることにした。紐を巻いてくれた駒を持つ時子、その手に、尚輝先生が手を添える。
「あ……」
　時子はどぎまぎしてしまった。
「僕の動きに合わせて下さい」
「は、はい」
　力を抜いて、尚輝先生の動きを真似る。そして、
「やった」
　いつの間にか集まっていたギャラリーから拍手が起こる。駒は勢いよく回り始めた。

「楽しんで貰えて何よりです！」
　店を後にすると、ナナがそう言った。楽しむと言うか、良い思い出が出来た。尚輝先生の暖かい手の感触は忘れられそうにない。ふと、綺麗な音楽が流れていることに気づいた。
「あのお店ですかねー。オルゴールの専門店ですよ！」
　パステルカラーの外観が可愛らしい。
「入って……みましょうか」
　尚輝先生の提案で、店の中へ。色々な曲が鳴り響き、不思議と綺麗な音になっている。
　時子の目に留まったのは鳥の細工のオルゴールだった。手のひらに収まるほど小さいが流れる曲はいっそう綺麗だ。
「初めて聞く曲です。……尚輝先生は知っていますか」
「聞いたことがあるような気がしますけど、わからないですね」
「私もです。この世界の音楽なのかも知れないですね」
　不思議と静かな湖畔のイメージが湧いていた。
　聞き入った末、それを購入することに。
　それから、食べ歩きをしたり、尚輝先生の帽子やジャケットを見て回ったり、時間はあっという間に過ぎ、ショッピングツアーは終わりの時間になった。
「ありがとうございました！　また参加してください」
　ナナに見送られ、気づけば寝子島に立っていた。

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