タピオカにゃんにゃん｜リアクション

タピオカにゃんにゃん

　５　ささやかな幸せ

　寝子島映画村の近くにあるアクセサリーショップに向かっていた水上桜は『タピオカにゃんにゃん』の前で立ち止まった。
「ここが最近人気の……」
　看板を見上げて呟く。迷ったのはわずかな間だった。
（別に、アクセサリーの材料は今すぐ売り切れるわけじゃないし……）
　前々から興味があったし、入りたい、という気持ちが大きくなっていた。店のドアを押し開け、目で空いた席をチェックしつつカウンター前の列に並ぶ。正面の看板に表示されているメニューを見て注文を考えていると、やがて順番が来た。
「いらっしゃいませ！　ご注文は何になさいますか？」
　迎えてくれたのはアルバイトの少女で、桜はメニュー表を元に注文する。
「タピオカパンケーキセットで、飲み物はカフェオレでお願いします」
　単品の飲み物にはタピオカが入っているが、セットで頼む場合、タピオカなしのものも頼める。飲み物と番号札を受け取ると、桜は空いている席に座った。カフェオレに口をつけ、フロアにいる黒猫を眺めているうちに注文品が届く。パンケーキにはクリームとシロップがたっぷりとかかり、猫型のタピオカがたくさんトッピングされていた。
（甘くて、弾力があってとてもおいしい……）
　やっぱり来てよかった、と満たされた気分でパンケーキを頬張る。
（さっきの黒猫は……）
　フロアを見渡すが、見当たらない。すると、足元でみゃーーという声が聞こえた。人懐っこい瞳の猫に、桜は思わず両手を出していた。
「たぴおか、こっちおいで」
　素直に近付いてきたたぴおかを抱き留め、体中を優しく撫でる。小さく鳴きながら心地よさそうにしているのを見ていると、もっと撫でてあげたくなってくる。
「…………」
「ふにゃ～……」
　体が弛緩していくだけ、重みが増してくる。幸せそうなたぴおかの顔に、桜の気持ちもほっこりしてくる。
（……そういえば、ここの猫をなでるとささやかな幸せを与える、っていう噂を聞いたけど……）
　もう一度たぴおかを見ても、そしらぬ顔で撫でられていて噂の真偽はもちろん分からなかった。信じてもいいかな、と思ったのは、帰りに目的のアクセサリーショップに寄った時だった。
（欲しかった素材が、すごく安くなってる！）
　素材は在庫処分でワゴンセールになっていた。
　安く買えたということに加え、素材が売り切れる前に手に入れられたという幸運に胸を躍らせ、桜は自宅へと帰っていった。

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