タピオカにゃんにゃん｜リアクション

タピオカにゃんにゃん

　１　夢への旅路、その途中で

　寝子島アニメーション学院声優科1年の落合まゆらは、９月の校内選抜で来年の春アニメに出演することが決まった。ガヤも同然の端役だったが、合格を告げられた時には呆然とし、ボロボロと涙を零した。
（あれから１０日以上経つのかあ。まだ信じられないけど、現実なのよね）
　しかも、その報告を受けた日は誕生日で、奇跡のような幸せの余韻の中でまゆらは毎日を過ごしていた。
　学校に行き、バイトをし、いつも以上にボイストレーニングなどの基礎練習に励み――
　そして、休日である土曜日にまゆらは『タピオカにゃんにゃん』にやってきた。前に来たのはちょうど１週間前だった。
（平日は来る暇がないのよね）
　イートインに入ると、タピオカプリンアラモードとタピオカ入りオレンジソーダを注文する。プリンはシンプルなものもあったが、せっかくだからとちょっと豪華な方にした。
「お待たせしましたー！」
　届いたプリンは猫の形をしていた。２層になっていて、下の段はタピオカ入りの黒糖、上の段は普通の卵のプリンにカラメルがかかり、両目の部分がタピオカになっている。周囲は生クリームやフルーツでデコレーションされている。
（わあ、可愛い！）
　早速スマートフォンで写真を撮る。正面から綺麗に撮れたことを確認すると、スプーンでプリンを掬って食べる。
（美味しい……）
　タピオカのもちもち感もさることながら、プリンやクリームの甘さを合わせるとますます美味しい。
（幸せだな～）
　じっくりと味わっていると、看板猫のたぴおかが足元にすり寄ってきた。何度か来店しているまゆらを覚えているようで、撫でると甘え声を出してくる。
「おいでー、たぴおか」
　少し椅子を引いて呼びかけると、たぴおかはぴょんと膝に乗ってきた。猫の顔を見ながら撫でていると、穏やかな気持ちになってくる。
（なんとなーくささやかな幸せを感じるな）
　オレンジソーダの中のタピオカを食べ終える頃、たぴおかはレジ前に移動していた。
「ばいばい、またね」
　帰る時に声をかけると、にゃあ、と一声鳴いてくれた。
「いいことありそう」
　後日、バイトの時給が上がったのはたぴおかを撫でたおかげ――かもしれない。

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