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- 学年：職業
- 00月00日生 00歳
- AAA000000
#彼女の曖昧な考察 ～獣性～
【救済】
しばし、じりじりとした鋭利な刃の交換が続いた後。
今夜のどこか落ち着かない雲の流れは、狼女にとっては良いことなのか。はたまた都合の悪い事態なのか。
ともあれ一刻の後、隠れた月の下にきつく歯を食いしばり立っているのは、いささかに毛深く見えるだけのいたいけな少女でした。
「ふう。やれやれ」
月の光が鍵であると気づいたデイジーカッターが振るったのは本気のナイフさばきではなく、単なる時間稼ぎに過ぎません。けれど、次はないでしょう。再び月光が少女を照らす時は、仲間たちにその爪が及ぶことを、彼が許しはしないでしょうから。
それにどうやら、夜もそろそろ明ける頃です。
「うゥ……」
狼女。こうして見ればなんともちっぽけな、普通の女の子に過ぎません。服も着ておらず、靴も履かずに、震える小さな女の子です。
月光のなにが作用して、彼女を恐るべき怪物へと変貌させるのか。見守る彼らに、それを知る術はありません。
「さて、どうする。胡乱路さん」
サキリはナイフを収め、羽織っていたジャケットを少女へかけてやりました。小さな肩はぴくりと跳ねたものの、それを拒むつもりはないようです。
「これまでこの子は、例の映像を除けば、いたずらに誰かを傷つけた事例はおそらく無かった。今回は僕らのほうが探していたからね、今夜のは不幸な接触だったと言っていい。そうでなければきっと、彼女は誰も傷つけるつもりは無いんだと思う……僕はもう、深追いするつもりはないよ」
サキリは真っすぐに、少女の瞳を見つめます。
身を縮めた少女は周囲にだけでなく、自分自身にさえ怯えているのかもしれません。月の下で理性を失いかけ、今にも誰かを手にかけてしまいそうな恐怖と戦っているのかもしれません。
かけられたジャケットの襟をかき抱いた少女へ、秘子は歌うように。
「わたくしといっしょに来ませんか？ きっと上手～くやれると思うのです。ほら、んふふ、お友だちもたくさんたくさんいらっしゃいますよ？」
差し出した手のひらは、少女にとって救いとなるでしょうか。来島 アカリにもロベルト・エメリヤノフにも、素直にそうとは思えません。少女が日常へ戻るのが簡単なことであるとは、到底思えません。
かといって……この場に放置していく？ この小さくて、あまりにも弱々しく見えるただの女の子を？ あるいは、然るべきどこかへ預ける？ 一体、どこへ？
「さあ。狼女さん。わたくしといっしょに」
けれど。迷いと逡巡のそぶりを見せた後、少女はその手を取ることなく、
「……ほっといて」
引き留める隙も見せず俊敏に駆け抜け、明るい白が混じり始めた空のどこかへ、ふっ。消えてしまいました。
あらためて見れば、サキリと朝鳥 さゆるの身には細かな傷がちらほらと刻まれています。音海 なぎさはメディカルバッグを掲げて、
「ふたりとも。治療するから、傷を見せて」
「……あたしはいいわ」
「ダメだよ！」
狼女の正体や、多少なりとも流れた血。なぎさもいたたまれないような、どこか無力感を感じていたのかもしれません。少し強引にさゆるの腕を取り消毒液など塗布し始めると、さゆるは肩をすくめされるがままに任せました。
「やれやれ、素敵な茶番でしたね。商談はここまでです」
わざとらしくため息をついてみせたエレノア・エインズワースの感情はやはり、読めません。どこか不気味にこそ思えど、思惑の深くまで読み取ることはできません。
「んふふ、楽しい時間をありがとうございます。おかげさまで、刺激的な映像を皆さまにお届けすることができました」
スカートをついとつまみ上げ、秘子の返した言葉にさえ空々しく肩をすくめたのみ。
「わたくしたち、気が合いそうですね？ これからも、仲良くしてくださいね。んふふふ♪」
「ええ。機会があれば、またぜひに」
穏やかな表情とは裏腹にその響きは冷たく、水を相手にするかのように手応えに欠けました。
揚々と去るエレノア。微笑む秘子。
その対比にアカリは言いようのない不安を覚え、すがるように掴んだのはやはり、ロベルトの袖口でした。
もう長いこと見守り続けてきた彼女の笑みを、ロベルトは変わらず見つめます。
「先輩……怪我。大丈夫ですか」
「……あ、うん。大丈夫。もう痛くないよ、大丈夫……」
下から覗く桃色に揺れる美しい瞳に気づいて、心配させまいと、ロベルトはその頬をやわらかくなぞりました。
しばし、じりじりとした鋭利な刃の交換が続いた後。
今夜のどこか落ち着かない雲の流れは、狼女にとっては良いことなのか。はたまた都合の悪い事態なのか。
ともあれ一刻の後、隠れた月の下にきつく歯を食いしばり立っているのは、いささかに毛深く見えるだけのいたいけな少女でした。
「ふう。やれやれ」
月の光が鍵であると気づいたデイジーカッターが振るったのは本気のナイフさばきではなく、単なる時間稼ぎに過ぎません。けれど、次はないでしょう。再び月光が少女を照らす時は、仲間たちにその爪が及ぶことを、彼が許しはしないでしょうから。
それにどうやら、夜もそろそろ明ける頃です。
「うゥ……」
狼女。こうして見ればなんともちっぽけな、普通の女の子に過ぎません。服も着ておらず、靴も履かずに、震える小さな女の子です。
月光のなにが作用して、彼女を恐るべき怪物へと変貌させるのか。見守る彼らに、それを知る術はありません。
「さて、どうする。胡乱路さん」
サキリはナイフを収め、羽織っていたジャケットを少女へかけてやりました。小さな肩はぴくりと跳ねたものの、それを拒むつもりはないようです。
「これまでこの子は、例の映像を除けば、いたずらに誰かを傷つけた事例はおそらく無かった。今回は僕らのほうが探していたからね、今夜のは不幸な接触だったと言っていい。そうでなければきっと、彼女は誰も傷つけるつもりは無いんだと思う……僕はもう、深追いするつもりはないよ」
サキリは真っすぐに、少女の瞳を見つめます。
身を縮めた少女は周囲にだけでなく、自分自身にさえ怯えているのかもしれません。月の下で理性を失いかけ、今にも誰かを手にかけてしまいそうな恐怖と戦っているのかもしれません。
かけられたジャケットの襟をかき抱いた少女へ、秘子は歌うように。
「わたくしといっしょに来ませんか？ きっと上手～くやれると思うのです。ほら、んふふ、お友だちもたくさんたくさんいらっしゃいますよ？」
差し出した手のひらは、少女にとって救いとなるでしょうか。来島 アカリにもロベルト・エメリヤノフにも、素直にそうとは思えません。少女が日常へ戻るのが簡単なことであるとは、到底思えません。
かといって……この場に放置していく？ この小さくて、あまりにも弱々しく見えるただの女の子を？ あるいは、然るべきどこかへ預ける？ 一体、どこへ？
「さあ。狼女さん。わたくしといっしょに」
けれど。迷いと逡巡のそぶりを見せた後、少女はその手を取ることなく、
「……ほっといて」
引き留める隙も見せず俊敏に駆け抜け、明るい白が混じり始めた空のどこかへ、ふっ。消えてしまいました。
あらためて見れば、サキリと朝鳥 さゆるの身には細かな傷がちらほらと刻まれています。音海 なぎさはメディカルバッグを掲げて、
「ふたりとも。治療するから、傷を見せて」
「……あたしはいいわ」
「ダメだよ！」
狼女の正体や、多少なりとも流れた血。なぎさもいたたまれないような、どこか無力感を感じていたのかもしれません。少し強引にさゆるの腕を取り消毒液など塗布し始めると、さゆるは肩をすくめされるがままに任せました。
「やれやれ、素敵な茶番でしたね。商談はここまでです」
わざとらしくため息をついてみせたエレノア・エインズワースの感情はやはり、読めません。どこか不気味にこそ思えど、思惑の深くまで読み取ることはできません。
「んふふ、楽しい時間をありがとうございます。おかげさまで、刺激的な映像を皆さまにお届けすることができました」
スカートをついとつまみ上げ、秘子の返した言葉にさえ空々しく肩をすくめたのみ。
「わたくしたち、気が合いそうですね？ これからも、仲良くしてくださいね。んふふふ♪」
「ええ。機会があれば、またぜひに」
穏やかな表情とは裏腹にその響きは冷たく、水を相手にするかのように手応えに欠けました。
揚々と去るエレノア。微笑む秘子。
その対比にアカリは言いようのない不安を覚え、すがるように掴んだのはやはり、ロベルトの袖口でした。
もう長いこと見守り続けてきた彼女の笑みを、ロベルトは変わらず見つめます。
「先輩……怪我。大丈夫ですか」
「……あ、うん。大丈夫。もう痛くないよ、大丈夫……」
下から覗く桃色に揺れる美しい瞳に気づいて、心配させまいと、ロベルトはその頬をやわらかくなぞりました。
シナリオ
シナリオデータ
シナリオスケジュール
- シナリオガイド公開日
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- 2019年08月02日
- 参加申し込みの期限
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- 2019年08月09日 11時00分
- アクション投稿の期限
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- 2019年08月09日 11時00分
