──13700729。キリタニが記録します。
さて、今日も話をしようか。気分はどうだい?
──おなかすいた。
──食べたばかりだろう。食べていないのか?
ジョージーのやつ、サボりやがったな。
すまないな、あとでおやつの鹿肉を差し入れるよ。みんなには秘密だぜ?
──<沈黙>
──ええと、今日は投薬済みか? まだか。今日はDY088化合物を試すんだったな。
まあ、これはもう少し後でいい。注射は嫌いだろう?
──<沈黙>
──すまないね、苦労をかけて。
なにしろセリオスロピー症候群について分かってることと言ったら、
月の夜にゃあ気をつけろ、ってなくらいだから。
──おなかすいた。
──あとでな。いい子にして、おじさんの出すクイズにいくつか正解したら、
とっておきの骨付きリブをあげるよ。
さあ、壁のランプを見て。何色に見える? 左上のやつだ。
──あお。
──じゃあ、真ん中の右は?
──<沈黙>
──右下は?
──<沈黙>
──真ん中の下は? おやつはいらないか?
──きいろ……。
──そうだ、年嵩や階級への従順さは美徳だぞ。今から学んでおいたほうがいい。
ビリビリはもうこりごりだろう?
──<うなり声>
──ご機嫌ナナメか? やれやれ。そんな態度じゃあ、計画のアップデートを博士に進言せざるを得ないな。
また黒焦げになりたいのか?
──<うなり声><金属を擦る音>
──やめろ、切れっこないだろう。お前の瞬発膂力で、その鎖の降伏点を上回ることはできない。
そら、機嫌を直して。そんな顔をするもんじゃない。可愛い顔が台無しだ。
──<うなり声><金属が軋む音>
<うなり声><金属が軋む音>
<うなり声><金属が軋む音>
──その耳障りな音をやめろ! 反抗的な態度は計画の遅れを招くぞ、分かるか? これが長引くってことだ。
20万ボルトは効いただろう、え? 思い出したなら、ごねるのはやめて次のプロセスを、
──<金属が断裂する音>
──は。え? なん、
──<うなり声>
──や……、待て!! 待てだ、そこを動くな、動くなよ!
<電子音><ビープ音>
あっ、くそ、開けろ!! おい、ふざけるな!!
<電子音><ビープ音>
出せ!! ジョージー!! ペトラ博士!! 狂ってるのか!?
<電子音><ビープ音>
──<うなり声>
おなか……すいた。
──おい……冗談だよな? そいつは?
なあ、俺はほら、分かるだろう? 連中の命令で、ただ、
──<獣の咆哮>
──<断裂音><破裂音><破壊音>
<銃声><悲鳴><崩壊音>
<破壊音><悲鳴><銃声><銃声><悲鳴><崩壊音>
<沈黙>
<沈黙>
<沈黙>
──<咀嚼音>
「どうにも不鮮明な粗い映像と、恐ろしい音声によって構成されたこの謎の動画がネットに拡散し始めてから、およそひと月。寝子島にて夜毎に寄せられる、その奇怪な存在の目撃証言は、いまだ増え続けているようです」
空を仰げば、煌々と灯る月。
午前二時。薄暗くも島中がぼんやりとほのかな明かりに包まれるこの時間は、いつかの夜と変わらず、彼女のものです。
「『ミッドナイト・フリーキー・リポート』へようこそ! んふふ♪」
頼りなげなスマホのカメラへ向かって、彼女はぬるつくように微笑みます。
口を開けば、唾液が糸引く音が耳に障りました。
「正体はいまだ不明。けれど目にした方々は口を揃えて、同じ言葉を紡ぎました」
桃色の舌が唇をひと回りになぞり、濡れた音を喉から押し出します。
「
『狼女』」
噂は広がりを続けています。
深夜、赤く光る二つの瞳を闇の中に見た。それは、小柄で毛深い少女であったのだと。口元にぎらつく犬歯が、月影を照り返しぎらついていたのだと。
不明瞭ながらに動画へちらと映り込む、なんらかの施設……今は破壊されてしまったであろうその場所が、どうやら寝子島のどこかに実在するらしい、と。
「夜をたゆたう不確かな真実あらば、ためらわず解明に向かうのがわたくし
胡乱路 秘子、そしてミッドナイト・フリーキー・リポート! はてさて、今夜はどんなに刺激的な映像を、皆さまにお届けできることでしょうか? んふふふ……お楽しみに♪」
墨谷幽です。よろしくお願いいたします~。
不定期連作シナリオ、『彼女の曖昧な考察』の第二弾になります。
このシナリオの概要
このところ寝子島のあちこちで、奇怪な『狼女』の目撃情報が相次いでいます。
噂はねこったーなどを中心に流れていて、時おり画像や動画も上がっていますが、あまり鮮明なものはありません。
今はまだ、ニュースになるような大きな被害などは出ていないようですが、
放っておけばこの先どうなるのかは分かりません。
胡乱路 秘子は、オカルト系ネット配信番組の撮影として、この噂について調査するつもりのようです。
皆さんは、秘子の連絡で駆けつけた任意の協力者であったり、
たまたま通りすがり巻き込まれた一般人であったりします。
あるいは不思議な力によって、いつの間にかその場に呼び寄せられていた、
なんてこともあるかもしれません。
噂を信じるなら、『狼女』との接触には危険が伴うでしょう。
それなりの備えを用意したほうが良いかもしれません。
ご参加のきっかけはなんでもOKです。
怖い思いやホラー体験をしたい方。怪奇現象に立ち向かい、その謎を解き明かしたい方。
どなたでも、お気軽にご参加くださいませ!
アクション
月のまぶしい夜、秘子は調査を開始します。
皆さんは、寄せられた情報をもとに、あるいはカンを頼りに、自由に行動してください。
『狼女』の噂は寝子島全体に及んでおり、思わぬ場所で怪異を目撃したり、
襲われたりするかもしれません。
また、これに関連する噂として、しばらく前から寝子島のある区域で、
不審な人影が目撃されていたという情報もあります。
あわせて調査を行うと、意外な情報が手に入るかもしれません。
<目撃情報の一例>
・暗闇で赤く光る瞳。
・鋭く伸びた犬歯。
・響く遠吠え。
・寝子島ロープウェー展望台前駅付近。なんらかの獣を食む人影。
・星ヶ丘地区。街灯の明かりを俊敏に横切る影。
・寝子島街道。走行中の車両のボンネットに飛び乗った獣のようななにか。
・旧市街付近。やけに毛深い少女と、その手を引く老人の姿。
・寝子島小・中学校付近。食い散らかされたカラスの死骸。
・九夜山中。場所に似つかわしくない、白衣を着た人影。
・ネット上の発言「手首から先を食いちぎられた。チョーいてえ!」
・ネット上の発言「両手を前足みたいに使って走ってた。尻尾は無かったけど」
・ネット上の発言「フクロウみたいに大きな目を持つ何者かが、自分を見ていた」
・ネット上の発言「月の光をなにかが遮っていた」
情報の真偽は不明。別の現象の情報も混ざりこんでいるかもしれません。
このほかにも、なにかが起こるかもしれません。
NPC
○胡乱路 秘子
かつては謎の深夜番組で司会進行役を務めていましたが、今はフツウの学生です。
動画サイトにて、深夜のオカルト系生中継番組のリポーターとして活動中。
ねこったー等を通じて、皆さんに協力を求めています。
めったなことでは動じず常に笑顔を絶やしませんが、特になにかお役に立つわけでもなし。
どちらかというと撮影とリポートがメインで、解決は皆さん頼りです。
『#彼女の曖昧な考察』とは
胡乱路 秘子が、動画サイトの生番組の中継を通じて、不可解な現象や謎を追いかけていく、
単発シリーズです。
タイトルにあるように、この一連のお話で描かれる結末は、時に曖昧で、要領を得ないかもしれません。
真相は結局闇の中で、結果は判然としないかもしれません。
つまり、『信じるかどうかはアナタ次第』です。
以上になります。
それでは、皆さまのご参加をお待ちしておりますー!